研究課題/領域番号 |
26420750
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
出村 雅彦 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 特別研究員 (10354177)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 金属間化合物 / ニッケルアルミナイド / 結晶塑性変形 / 圧延 / 集合組織 / 単結晶 / 計算機シミュレーション |
研究実績の概要 |
金属間化合物ニッケルアルミナイド単結晶は圧延異方性を有し、結晶方位によっては、幅が広がったり、せん断歪みで菱形状に変形したり、曲がったりして、理想的な形状に圧延することができない。これを抑制しようと拘束した状態で圧延すると、板厚方向に強いせん断変形が生じて、細かく割れてしまう。本研究は、この原因をさぐるために、単結晶の圧延実験を行い、圧延中に働くすべり系の活動量を計算機シミュレーションで解析する。その結果を理想的な圧延変形の計算結果と比較し、どのすべり系が抑制され、どのすべり系が抑制されずに活動したかをつきとめる。この情報をもとに、すべり系同士の相互作用に着目して、転位の運動を抑制している決定的な運動障害を明らかにする。 初年度である昨年は、計算機シミュレーションの基礎となる塑性変形モデルを単結晶引張試験の結果をもとに構築した。 今年度は、構築した塑性変形モデルに基づいて、不整な圧延挙動を示す3つの例について、実際の圧延で働いていたと考えられるすべり系とそのすべり量を見積もる手法を開発した。問題となる、不整な圧延における変形勾配テンソルの9成分は以下の手法で推定した。まず、対角成分の3つは実際の試験片から測定した圧下率と幅広がりから、体積一定の仮定で求めた。非対角成分のうち3つについては、長手方向が圧延方向に平行、また、板表面が圧延面に平行であるという仮定のもと、0と置いた。最後に、残った3つの非対角成分について、実際の結晶格子回転が再現できるように、Simplex法を用いて最適化を行った。3つの不整な圧延を模擬した計算の最終方位は実験値と0-2.6度の範囲で一致し、また、サンプル先端のせん断変形形状の方向も、推定した変形勾配テンソルで示される方向と一致した。本手法によって、不整な圧延における活動すべり系の解析が可能となったと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の結果に基づいて、不整な圧延変形を模擬するための手法を開発することができ、不整な圧延変形におけるすべり系の解析ができるようになった。最終年度には、この手法を用いて、抑制されたすべり系を明らかにする計画であり、当初の予定通り、研究を進めることができている。年度後半に、単結晶試料の確認のために使用していた光学顕微鏡のデジタルイメージ記録部が故障するトラブルがあったが、研究経費を有効に活用して対応部品を購入することができ、来年度以降も研究を遂行する体制が整っている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに不整な圧延変形の結果を解析する手段を開発することができた。最終年度は、解析結果を用いて、不整な圧延をもたらしていたニッケルアルミナイド特有の原因について、材料学的な仮説を立てることを目標とする。まず、昨年度解析した3つの例について、活動していたすべり系を詳細に解析し、その結果を正則な圧延変形、すなわち平面ひずみ条件で変形するために必要なすべり系と比較する。ここから、どのようなすべり系が抑制され、また、どのすべり系が活性化したかを見いだす。これらの分析から、すべり系同士の相互作用に着目して、すべての結果を矛盾なく説明できる仮説があり得るかを考察する。その上で、さらに解析する単結晶圧延実験の例を増やし、得られた仮説の結晶を行う予定である。 圧延実験用単結晶の育成を行う特別研究員を引き続き雇用しつつ、これまでに育成した単結晶試料の有効活用や、我々のグループで過去に圧延した試料について再解析を行うなど、シミュレーション手法の開発に必要なデータを確実に入手できるように工夫する。できるだけ、多くの単結晶圧延実験に対して、開発した手法を適用することで、不整な圧延変形をもたらすニッケルアルミナイド特有の原因について、統計的に確度の高い仮説を提唱したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究において単結晶育成が重要であり、そのための特別研究員雇用に研究費を使用している。単結晶育成は、時間がかかることに加え、難易度が高く、育成したインゴットが必ず目的の単結晶になるとは限らないという不確実性がある。そのため、特別研究員が勤務できる期間に即して、できるだけ雇用日数を多くできるよう、他費目を抑制しながら調整した。また、年度後半に発生した実験装置故障への対応にかかる経費についても、同様に、他費目の使用を抑制して対応した。その結果として発生した差額分については、本年度に別費目等で使用するよりも、次年度以降の人件費として使用することが、研究成果を達成するために最適と判断したため、次年度使用額としたものである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については人件費に充当することにし、加えて、他費目の使用計画も十分見直して、できる限り単結晶育成に必要な人件費を増やすように使用する。ただし、最終年度であることを考慮し、成果の公表にも活用する。
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