研究課題/領域番号 |
26420754
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小林 能直 東京工業大学, 大学院理工学研究科(工学系), 准教授 (20354269)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 鉄鋼精錬 / 脱酸 / 固体電解質 / 酸素ポンプ / 酸素センサー / 溶解 / 白金 / モリブデン |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度実験立てを変更して実行した、銅との溶解度の小さいモリブデン線を金属電極の一端として用いて行った溶融銅の電気脱酸実験の脱酸機構が、所期のとおりに作用しているかを精査することと、本実験の再現性についての確認を行うために、同一実験条件で実験を行った。すなわち、カルシア安定化ジルコニア容器内に装入した酸素含有銅にモリブデン線を差し込み、ジルコニア容器外壁に塗布した白金ペーストを介して白金電極より外部リード線につなぎ、1443Kにて保持して銅を溶融した後、モリブデン線との間に電圧を付加することで、溶銅の電気脱酸を試みた。その結果、銅中の酸素濃度が当初の0.383mass%から0.0112mass%まで減少していることがわかった。これはLECO社製酸素窒素同時分析装置を用いて、不活性ガス抽出赤外吸収法により酸素の定量を行って得た値で、昨年度の電気量の移動量から推算したものに比べ精度が上がっている。この結果と、電気移動量から計算した酸素減少の見積もりを比較すると、見積もりよりはるかに低い酸素濃度であることが判明し、本実験による脱酸が、電気脱酸のみならず、他の脱酸機構によって起こっていることがわかった。実験後の試料の横断面をSEM-EDSによって観察したところ、モリブデン線の周囲に異相膜(モリブデン酸化物)が生成しており、本実験では、酸素は電気脱酸により低減されるとともに、モリブデンによる化学脱酸が同時に起こり、この2つの機構による共同脱酸が起こっていたことが推測された。そこで、続いて本年度は、この化学脱酸の影響を排除して、純粋に電気脱酸のみを生じさせた場合の挙動がどうなるかを調べるために、電極と試料を一体化し、銅を固液共存させる方法を試行した。現在、予備実験の結果を踏まえ、外気との遮断性に重点を置いて、実験方法の確立を目指して、装置立ての改善を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、鋼から酸素を効率よくかつ清浄に除去するために、溶鋼と外部の雰囲気の間に容器を挟んで高電圧をかけ、電気的に脱酸を行うための指導原理を確立することにある。当初は溶鋼との相互溶解度がほとんどない銀を介在させ、溶鋼側は溶融銀、急な温度勾配を細い経路につけて、電極側は固体銀、というセットアップでの実証実験を、検討していた。しかしこの温度の急勾配などの実験的に難しい問題が懸念されたため、モリブデン線を電極の一端とし、融点の低い金属から試行するということで溶銅の脱酸を行ったところ、電極のモリブデンによる化学脱酸も同時に生じたため、これを避けるために同一金属の固液共存状態を利用する、というアイデアをもとに、現在、溶銅の上方に固体銅を連続的に配置し、化学脱酸が起きない状況での電気脱酸を試みている。これは、当初の予定の溶鉄―溶融銀―固体銀の連続体を使用しての電気脱酸にコンセプトとして近いものがあり、当初の目的の実験原理に基づいた実験に取り組んでいるという点では、本質的な進捗があるものと考えている。現在、溶銅―固体銅の重量が大きいため、ジルコニア管が割れやすい、という実験上の難点の克服に着手しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
溶銅―固体銅の連続体を利用した電極による脱酸は、固液界面の安定性確保や、温度勾配による系の不安定性への対応、また上部に接続した銅ワイヤの弾性に関連した応力のかかり具合やそして静溶銅圧の影響検討など、装置の健全性を確保するための対策が重要な課題となっている。現在、温度勾配を付けるべき部位の調整、固体銅と銅ワイヤのバランス、そして電解質材料の選択などについて検討を行っている。例えば、カルシア安定化ジルコニアよりも応力や熱衝撃に強いマグネシア安定化ジルコニアを使用するなどの方策を検討している。また、本手法が確立され、電気脱酸の挙動が機構解明・速度論的考察により明らかになった後は、より高温のニッケル、あるいは鉄など、段階的に対象金属を変え、金属の種類のよらぬ共通の脱酸原理と、溶融金属内の酸素の拡散係数など差異の生じる物性について調査をし、より良い電解質材料の選択も含め、効果的な脱酸手法について提案を行う。また、実機への応用例として、固液連続体が実現されている連続鋳造プロセスへの適用などの、工夫は必要であるが、可能性のあるプロセスについて提案してまいりたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は、モリブデン線を電極の一端として用いた実験の再現性を確認することと、最終的に着手した溶融銅―固体銅連続体活用実験の実験方法検討のための実験設備整備のための消耗品、高温実験用物品に予算を使用し、ほぼ配当額に近い執行を行わせていただくことができたが、当初の溶融ステンレス鋼、溶融ニッケルを用いた実験は実施しなかったこともあり、少額の差額が生ずる結果となった。
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次年度使用額の使用計画 |
3年目は、溶融銅―固体銅の実験を、実験設備や酸素ポンプの健全性を確保しながら実施するための改善を行っていくことを予定しており、電解質材料の試用、上部ガラス管のセットアップ構造の工夫などが必要となるため、通常の消耗品に加えて、これらの費用が加わることが予想されるため、前年度未執行額を最終年度の使用計画の中に組み込ませていただければ、と考えている。
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