研究課題/領域番号 |
26420755
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
鈴木 賢紀 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20610728)
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研究分担者 |
田中 敏宏 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10179773)
岡島 敏浩 公益財団法人佐賀県地域産業支援センター九州シンクロトロン光研究センター, その他部局等, 研究員 (20450950)
梅咲 則正 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (70127190)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リサイクル・循環・再利用・変換 / 六価クロム / スラグ / X線吸収端微細構造 |
研究実績の概要 |
本研究は、Cr含有スラグにおけるCr(VI)イオンの形成および溶出メカニズム解明のために、スラグを構成する主要な結晶相におけるCrイオンの固溶形態を、大型放射光施設におけるX線吸収スペクトル測定による分光学的手法と第一原理バンド計算を駆使した高度な構造解析の実施によって明らかにすることを目的としている。 我々は、Cr含有スラグの構成相の中で、Cr(VI)溶出量増加に関係していると考えられるDicalcium silicate(2CaO・SiO2), Merwinite(3CaO・MgO・2SiO2), Melilite(2CaO・MgO・2SiO2-2CaO・Al2O3・SiO2固溶体)に着目した。 Dicalcium silicateを母相とした場合のCrイオン固溶形態については、平成26年度の研究で微細構造の情報を取得するとともに、平成27年度、第一原理計算によるX線吸収スペクトルの計算を行って実験結果と比較することによって、Cr局所構造モデルの導出を行うことができた。 平成27年度ではさらに、Merwinite, Meliliteに注目し、Crイオン固溶形態ならびにこれに及ぼす温度ならびに雰囲気の影響について、構造解析に基づく研究を行った。本年度研究の結果、まずMerwiniteを母相とし、高温(1400℃)でCrイオンを固溶させた場合には、焼成雰囲気(空気または不活性ガス)によらず、Crイオンは概ね3価の状態で存在するが、空気中、1000℃以下の低温で焼成を行ってCrを固溶させた場合には、第2相としてCr(VI)を含む化合物の析出が見られ、Crイオンは6価の状態で存在することがわかった。一方、Meliliteを母相とした場合には、熱処理時の温度・雰囲気条件によらず、Crイオンは3価の状態で母相中に固溶することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、昨年度に導入した計算機環境による第一原理計算の実施によって、これまで導出が難しいとされた、歪んだ結晶構造を有するβ-Dicalcium silicate中Crイオンの固溶構造モデルを見出すことができた。また、MerwiniteやMeliliteを母相とした場合について、焼成時の雰囲気・温度を系統的に変えた際のCrイオン固溶形態についての知見を得ることができた。これらの結果により、当初から対象としていた化合物相におけるCrイオンの固溶形態に対しては大よその結論を得ることができた。したがって、本研究は当初の計画通り、順調に進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度における研究の結果、Merwinite, Meliliteを母相とした場合についてCrイオン固溶体試料を作製するともに、X線吸収スペクトルによる分析からCrイオンの価数ならびに局所構造に対する構造的情報を得ることができた。平成28年度ではまず、平成27年度に得た上記の構造的情報に基づき第一原理計算を利用することによって、MerwiniteおよびMelilite化合物に固溶したCrイオン局所構造モデルの導出を試みる。これらの化合物は、主に(SiO4)4-による錯イオンとその周囲にCa2+またはMg2+が規則的に配置した単斜晶または正方晶の結晶構造を持つ。一方、これらの化合物に対してCrイオンは3価ないし6価の状態で固溶することが見出されたが、上記のような2価イオンと(SiO4)4-錯イオンから成る結晶構造を有するMerwiniteおよびMeliliteへ、Crイオンがどのように置換固溶するかを把握することは重要である。 また、特にMerwiniteを母相とし、Cr固溶体試料を作製する際の雰囲気を大気とした場合には、温度条件によってCrイオンの価数状態が異なり、特に1000℃以下の温度で作製したCr含有試料においてはCr(VI)の形成が明らかとなった。しかしながら実際のCr含有スラグ生成過程では、1700℃の高温でCr含有スラグが生成した後、冷却過程でMerwinite化合物が析出し、Crイオンが分配されると考えられる。1000℃よりも高温下でMerwinite化合物へCrイオンが固溶した後、大気に曝されつつ常温まで冷却される過程のどの時点で、Crイオンの酸化が生じるのかは明らかでない。平成28年度ではこれを明らかにするための研究を行い、Merwiniteを含むCr含有スラグからの6価クロム形成メカニズムを明らかにする方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を遂行する上で正味必要な経費を見積通りに従って執行した結果生じた残額であり、執行上の問題はない。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度の研究費と合わせて、Cr含有スラグ試料の作製に係る消耗品等の経費として使用する計画である。
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