研究課題/領域番号 |
26420757
|
研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
高須 登実男 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20264129)
|
研究分担者 |
伊藤 秀行 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90213074)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 金属生産工学 / 素材精製 / 電解精製 / モデル化 / 銅製錬 / スライム / 析出形態 / 電解液流動 |
研究実績の概要 |
銅電解精製において電解液の流動により銅イオンの物質移動を促進させれば、アノードの不動態化の抑制、カソードの平滑化や純度向上が可能であるが、実操業には適用されていない。その主因は、アノードで生成するスライムのカソードへの取込みによるカソード純度の低下と貴金属の回収率の低下、さらには、付着したスライムによってコブ状析出物が生成され電流効率の低下が危惧されるためと考えられる。そこで、本研究では、カソードへの粒子の取込みとそれに起因するコブ状析出物の生成について、模擬スライム粒子を用いた実験を実施し、各種因子の影響を学術的に明らかにすることで、これらの問題を抑制するための方法についての指針を示すことを目的としている。 今年度は、静止系を含み強制流動の強さを調整できる電解実験装置を設計・制作し、実験を実施した。内径16.4mm、長さ110mmのガラス管の底部にカソードを設置した。電解液組成としては、銅40g/L、遊離硫酸180g/Lとし、液温度を60℃とした。電流密度を400A/m2とし、理論析出厚さが0.5mmとなる通電電気量とした。強制流動の付与には、ガラス棒に撹拌翼(5mmx7mm)2枚を取り付けたものを用い、撹拌速度を0と300rpmの2条件とした。模擬スライム粒子としては、Ag(5~50um) とAl2O3(3~45um) とし、添加なしの場合も実施した。 電解後のカソードの表面および断面を観察し、0rpmでは、添加なしでは端部の析出が厚かったが、粒子を添加することで平均化することが分かった。300rpmとすることで、局所的に粒子状の成長が観測され、それ以外の場所では平滑性が増す傾向となった。このとき、析出粒子の下部には添加粒子の凝集体が存在する傾向があり、特にカソード中心部において、Agでは凝集体の下部に、Al2O3では凝集体の上部に空隙が形成される傾向が見られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、カソードへの粒子の取込みとそれに起因するコブ状析出物の生成について、模擬スライム粒子を用いた実験を実施し、各種因子の影響を学術的に明らかにすることで、これらの問題を抑制するための方法についての指針を示すことを目的としている。 これまでに、研究の基礎となる電解実験装置を設計・制作し、それを用いた析出実験を実施した。電解時のカソード表面の観察と電位測定、また、電解後のカソード表面および断面の観察を実施した。強制流動の強さと粒子の添加の有無によって、カソードへの粒子の取込まれ方と析出物の形態が影響を受けることを明らかにした。特に、大きな析出粒子の下部には添加粒子の凝集体が存在する傾向にあること、また、凝集体が大きな場合には空隙も形成されることが分かった。すなわち、基本的な研究手法としての妥当性を確認し、また、コブ状析出物の生成に関わる知見を取得した。 一方で、粒子種については、Al2O3とAg(一部Cu)のみのデータを取得しただけであり、粒子の導電性の影響の傾向を掴むことはできたものの、粒子種の詳細な影響については検討できなかった。また、現象のモデル化についても、実験データと対比できるようなところまで進展させることができていない。また、共存元素、添加剤、温度、初期表面粗さといった因子の影響について、静止条件での知見を今年度に取得する予定であったが、実験手法の確立と基礎データの取得に予想以上の時間を要したため、これらの因子の影響については次年度に明らかにすることにした。 以上の状況より、研究の進行が若干遅れているところはあるものの、着実に成果を上げつつあると判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で開発した電解実験装置と条件、さらには、電位の測定と粒子および析出物の観察手法を基本として、各種因子の影響を系統的に調査していく。これまでに得られた知見より、操作因子として、強制流動の強さ、粒子の径や添加量および種類の影響をさらに精細に明確化することが重要であることが示されたため、まずはこれらについて重点的に調査を実施する。その際、現象のモデル化についても、実験データと対比できるようなところまで早期に進展させ、現象の理解と実験条件の絞り込みに活用する。 並列して、カソードに付着した粒子の流れによる離脱について調査する。電解をしていない状態で、付着粒子の離脱に必要な最低流速に及ぼす各種因子の影響調査を実施する。また、流速を付与する前の電解時間および電流密度についても操作因子として取り上げ、粒子周りの析出による粒子の付着性の変化を明確にする。 さらに、上述した強制流動の強さ、模擬粒子の径や添加量および種類に加えて、共存元素(ヒ素、ビスマス、アンチモン)、添加剤(ゼラチン、チオ尿素、塩素、界面活性剤)、温度、初期表面粗さといった多くの操作因子があるため、ここまでに実施している析出挙動についての実験結果および計算結果を参照して実験条件を絞り込むとともに、得られるデータを逐次参照して、実験条件を確定させることで効率的に研究を進める。また、粒子の付着条件と流動による析出挙動の変化を評価できるように数学モデルを拡張し、拡張した数学モデルを用いて各種因子が現象に与える影響を定量評価する。 以上の調査結果をまとめ、付着した粒子が電析物に取込まれ、コブ状の析出を形成する条件を明確にすることで、これらを抑制するための方法の指針を示す。
|