研究課題/領域番号 |
26420760
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
丸山 徹 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (80330174)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 消失模型鋳造 / 熱分解 / ポリスチレン / 湯流れ |
研究実績の概要 |
前年度の研究の結果、溶湯温度が950℃になると液化樹脂の生成量が著しく増加することと湯流れ速度の低下が明らかになった。そこで当該年度では、鋳鉄(鋳型充填中の溶湯温度:約1200℃)の鋳造実験を行い、湯流れ速度測定と生成した液化樹脂の捕集・分析を行った。 捕集した液化樹脂の元素分析の結果、水素と炭素のみが検出され、その原子比率はスチレンと同じ1:1であった。比較のために鋳造温度900℃(銅合金)で生成した液化樹脂を分析した結果、原子比率は同じく1:1であった。液化樹脂中の物質同定を行うために、NMR及びGC-MSで測定を行った。その結果、鋳鉄(1200℃)及び銅合金(900℃)の鋳造で生成した液化樹脂の両方とも、主成分はスチレンモノマであることが明らかになった。さらに鋳鉄の鋳造実験で捕集された液化樹脂中にはスチレンのモノマよりも分子量の大きい物質が多種類存在することが明らかとなった。このことから、高温で分解したポリスチレンが一部再重合して液化物が増加したことが示唆された。 また、鋳鉄の鋳造で捕集された液化樹脂には1μm未満の熱分解炭素が懸濁していることが光学顕微鏡観察により明らかとなった。 湯流れ速度測定の結果、鋳鉄と銅合金で初期の充填速度に違いがみられた。銅合金の湯流れ速度は充填初期で最も速く、時間の経過とともに遅くなる一般的な傾向が確認されたが、鋳鉄の湯流れ速度は初期で最も遅く、その後急速に速くなった後に速度が低下する現象が認められた。 これらのことから、熱分解液化樹脂の多量発生が初期の湯流れ速度が遅いことの要因であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度は液化樹脂の多量発生現象を調査する実験を優先したために、熱分解生成物の分析ができなかったが、当該年度では、元素分析に加えてNMRとGC-MSによる分析により、熱分解液化樹脂の同定を行うことができた。 また、多量に発生した液化樹脂が湯流れ速度を低下させている要因であることが示唆され、湯流れシミュレーションのモデル作成に組み込むことで研究目標の達成が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では、溶湯充填の初期、中期、末期における熱分解液化樹脂を捕集・分析することで、シミュレーションに用いる基本データを求めることとする。溶湯の充填初期に液化樹脂が多量に発生する現象をモデルに組み込み、溶湯温度や塗型の通気度をパラメータとして補完実験を行い、モデルの精度向上を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、熱分解液化樹脂の分析を外注する予定であったが、NMRやGC-MSを学内で行う環境が整ったため、それらの費用は発生しなかった。一方で、鋳造実験では熱分解液化樹脂の捕集のための実験に加えて、溶湯充填初期の湯流れ速度を測定する実験を追加したために鋳造実験の消耗費用が増加した。しかし、その増加分は分析で生じなかった費用よりも少なかったために、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度では、シミュレーションモデルの構築とその精度向上のための鋳造実験を行う。直接経費の使用計画は、平成28年配分額(500,000円)に加えて次年度使用額(11,539円)を使用する計画とする。具体的には物品費として消耗品(溶解用金属、鋳造用耐火物、ガラス器具及びセンサ類)の購入に全てを使用する計画とする。分析に関しては学内で実施可能な環境は平成28年度も継続されることから費用の発生はない。旅費・人件費・謝金の使用は予定していない。
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