研究課題/領域番号 |
26420762
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
高橋 伸英 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (40377651)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 地球温暖化 / 二酸化炭素回収貯留 / CO2分離 / 化学吸収 / 吸収液再生 / CO2放散 / 多孔質膜 |
研究実績の概要 |
地球温暖化対策として期待されている二酸化炭素回収貯留技術に用いられるCO2分離方法として、排ガス中のCO2と吸収液との化学反応を利用した化学吸収法が実用化に最も近いと期待されているが、CO2を吸収した吸収液の再生エネルギーの削減が課題である。そこで本研究は、従来の加熱方式に替わる新奇なプロセスとして、多孔質中空糸膜を用いた減圧フラッシュ放散プロセスに着目し、膜の物理的・化学的特性がCO2放散速度に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。 中空糸膜材料として中心粒径1.0-1.2 μmのα-Al2O3粒子(AA-1)を用い、遠心鋳造法により直径約14mmで、膜厚が1.5 mm(薄膜)と2.5 mm(厚膜)の2種類の多孔質中空糸膜を作製した。さらに、薄膜の内表面に中心粒径0.3 μmのα-Al2O3粒子(AA-03)を堆積させた膜も作製した。CO2リッチに調製したジエタノールアミン水溶液を中空糸膜内側へ供給し、膜外側を大気圧との圧力差45-95 kPaに減圧し、CO2放散実験を行った。その結果、薄膜に比べ厚膜で放散速度が高くなった。また、AA-1単独の膜に比べAA-03を堆積させた膜では放散速度が高くなった。これらのことより、膜と液との接触面積・接触時間を増大させることにより、放散が促進されることが示唆された。 一方、膜材料となる金属酸化物粒子の化学性の影響を調査するために、アルミナ、ジルコニア、シリカ、チタニアの粒子を使用して減圧放散実験を行った。その結果、ジルコニアで著しく低い放散速度を示した。これはジルコニアが最もpHが高く、吸収液からのCO2の解離に不利であるためと考えられる。さらに、pHの異なるシリカ粒子を用いた放散実験では、pHが低いほど放散速度が高くなる傾向が得られ、材料粒子の化学性がCO2放散に影響を及ぼすことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多孔質中空糸膜を用いたCO2の減圧フラッシュ放散プロセスにおいて、膜の物理的および化学的特性の両面から放散速度へ及ぼす影響を調査している。初年度は、膜の物理的性質として、膜厚を変更しその影響を調査した。さらに、基板となる膜の表面に小粒子を堆積し、膜の構造を変更し、放散への影響を調査した。得られた結果は概ね予想していた結果であったが、さらに放散速度を向上できる膜構造の探索が必要であることも示唆された。一方、化学的性質については、まずは膜にする前の粒子の状態で、異なる金属酸化物の種類、あるいは、pHの異なる粒子を用いて、CO2放散への影響を調査した。その結果、化学的性質が放散に何らかの影響を及ぼすことが明らかとなり、今後の研究方針の基礎データを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
膜厚を増大する、あるいは、小粒子を堆積させることにより放散速度が向上することが示されたが、一方で、液の透過速度は低下した。液の透過速度が低下し過ぎると、放散速度も低下してしまうため、これ以上の膜厚の増大によるCO2放散速度の向上は期待できない。そこで、液透過速度を低下させずに液と膜の接触面積を増大させるために、基板となる多孔質膜の細孔表面にナノ粒子を堆積させることを考える。ナノ粒子を堆積させる方法としては、アルミニウムのアルコキシド溶液を前駆体とし、ゾルーゲル法によりナノ粒子を析出させる。濃度を変えることにより、析出量を変え、CO2放散速度への影響を調査する。 一方、材料の化学性の影響については、前年度の成果より、材料となる金属酸化物粒子のpHがCO2放散に影響を与えることが明らかとなった。そこで、前年度の調査からCO2放散を促進する効果が期待される粒子を用いて、多孔質中空糸膜を作成し、放散実験を行い、その効果を検証する。また、基板となるアルミナの多孔質中空糸膜の細孔表面に異なる官能基を修飾し、CO2放散に及ぼす影響を調査する。修飾する官能基としては、酸性官能基であるカルボキシル基、スルホン基、リン酸基、および、塩基性官能基であるアミン基とする。これらの官能基で修飾した膜について、pHや等電点などの化学性を評価するとともに、細孔径分布などの物理的性質を評価する。それらの特性を踏まえた上で、これらの膜を用いてCO2放散実験を行い、放散速度への影響を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年度途中にこれまで遠心鋳造法により中空糸膜を作成する際に使用していた旋盤が大学の事情により使用不可となった。そこで、高真空ポンプ購入として計上していた経費を卓上型旋盤の購入費に充てるよう予算計画を変更した。しかし、機種選定に時間を要したため、翌年度に繰り越すこととなった。なお、真空ポンプはこれまで他機関から借用しているものを引き続き使用する。 また、H26年度に海外での国際学会での発表を予定し、経費を計上していたが、想定していた学会よりも適当な学会がH27年度に開催されることが判明し、その学会への参加費用に充てることにした。 また、論文掲載料、校閲料を計上していたが、H26年度に投稿することができなかっため、次年度に繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の理由により、遠心鋳造法による中空糸膜作製のために必要な卓上型の旋盤を購入する。また、9月にカナダで開催される燃焼後CO2回収に関する国際会議PCCC3に参加する。また、H26年度に投稿できなかった論文を投稿し、その掲載料、校閲料に充てる。
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