前年度に引き続き、真密度が高く粒子径の大きな粒子(以下、大粒子)と、低密度且つ小径の蛍光粒子(以下、小粒子)とが共分散した高分子水溶液薄膜を対象として、その乾燥に伴う粒子積層状態を蛍光強度から定量的に算出したところ、小粒子の表面偏析量がある高分子濃度で極大値を取ることを新たに見出した。この特異な積層挙動のメカニズムを調べるため、高分子成分として分子量の異なるカルボキシメチルセルロースを、大粒子として二酸化チタンナノ粒子をそれぞれ用いた場合について検討を進めたところ、大粒子表面への高分子吸着量は、高分子成分の分子量の増加に伴いべき乗則に従って増加し、高分子鎖は粒子表面でループトレイン型の吸着形態を取ることがわかった。他方、BET測定より得た乾燥後の粒子分散膜の比表面積は、高分子添加量の増加に伴って低下した。これは、薄膜表面からの光散乱開始時刻、すなわち隣接する分散粒子間にメニスカスが形成される時刻において、粒子体積分率が高分子濃度の増加と共に増加するとの実験事実によく対応しており、高分子濃度の増加に伴って膜内の粒子がより密に充填されることを示している。これらの結果から、低高分子濃度では吸着高分子鎖間の立体反発が支配的であり大粒子は疎な充填構造を取るが、より高濃度では吸着高分子鎖を介したbridging凝集が支配的となり、より密な粒子充填構造へ遷移するものと考えられる。前年度までの成果から、小粒子は大粒子間の間隙を通過して表面へ移流することが明らかであることを考えれば、高分子濃度の増加に伴って大粒子の充填がより密になるためにメニスカス曲率が減少し、より強い毛管圧が発生する結果として、圧力流れによる小粒子の表面への移流がより活発になったものと考えられる。さらに高分子濃度が増加すると、液粘度の増加に伴って移流速度が低下し、小粒子の表面偏析量は逆に低下するものと考えられる。
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