培養槽を利用した好気性微生物の大量培養には撹拌による菌体への損傷を減らし、より多くの酸素を撹拌槽に取り込むことが必要である。エレメント積層型撹拌翼(MSE翼)は、網目構造を持つ板を何枚にも重ね、ハニカム構造状にした撹拌翼であり、従来の一般的な撹拌翼(ディスクタービン翼)と比較して格段に大きな表面積を有し、剪断特性に優れており、穏和な条件で攪拌できるため好気性微生物の大量培養を目的としたバイオリアクターへの適用が期待される。昨年度までの研究において、通性嫌気性微生物である酵母を用いて培養を行い、撹拌翼の気泡分散性能を明らかにするとともに、通気撹拌における剪断応力と酵母の生菌数と死菌数の増殖の関係を検討し、MSE翼の優位性を明らかにした。 本年度はMSE翼を用いた撹拌槽における酵母の好気性培養において、剪断応力による菌体の損傷について、アルコール発酵により産生したエタノール濃度の経時変化より検討を行った。その結果、6枚ディスクタービン翼及び分割数の少ないエレメント積層型攪拌翼を用いて培養した場合のワイン酵母の生菌数と死菌数及び発酵により産生したエタノール濃度の経時変化との比較から、6枚ディスクタービン翼を用いて培養した場合より、分割数の少ないエレメント積層型攪拌翼を用いて培養した方がワイン酵母の生菌数の増加速度が大きく、エタノール濃度の増加速度も大きいことが分かった。このことから、MSE翼の方が剪断応力が小さく、穏やかに効率よく撹拌できることが明らかとなり、MSE翼の優位性が確認できた。
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