研究課題/領域番号 |
26420781
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
柘植 義文 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00179988)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 化学プラント / 運転監視 / 正常状態予測 / ソフトセンサー / データベースモデル |
研究実績の概要 |
(1) データベースモデル(DBモデル)を利用した正常状態予測システムを作成した.モデルへの入力に対応するレコードの定義によって,2種類のモデルを準備した.すなわち,対象プロセス入力変数が同時刻のプロセス出力変数に影響を及ぼすような場合と,遅れて影響を及ぼす場合である.いずれの場合においても,モデルの次数は任意に設定することができる.システムでは,モデル入力と類似したレコードを探索するが,そのときの類似性の指標としてユークリッド距離とマハラビノス距離の2つの指標のいずれかを選択できるようにした. (2) ボイラープラントでは,スチームの必要供給量の変動(負荷変動)が頻繁に起こるため,プラントの動特性に即して正常状態も変動することが多い.そこで,オメガシミュレーション社製のVisual Modelerで構築されたボイラープラントのシミュレータを利用して,高圧,中圧,低圧の3種類のスチームの必要供給量をある範囲内で適宜変動させたときの正常運転時の履歴データを作成した.これらのデータに測定ノイズを付加し,正常運伝時の履歴データ約350日分をデータベースに格納した.一方,履歴データとは別に,検証用データとして約12日間の運転データを10組準備した. (3) 10組の検証データに対して,正常状態予測を行ったところ,類似性の指標としてユークリッド距離を用いた場合には,概ね良好な結果が得られた.しかし,マハラビノス距離を用いた場合は,良好な結果が得られない場合もあった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 当初の予定通り,データベースモデル(DBモデル)を利用した正常状態予測システムを作成することができた. (2) データベースに格納する履歴データとして約350日分の運転データを作成した.具体的には,3種類のスチームの変動範囲内で設定した負荷条件は375個あり,変動前後の負荷条件の組合わせである変動パターンは1710通りを設定して,約350日分の運転データを作成した.実プラントの運転状況を十分カバーできるデータ量である. 一方,10個の検証データは3種類(DataA,DataB,DataC)に大別できる.DataAは負荷条件および変動パターンが履歴データ内に存在する.DataBは負荷条件は履歴データ内に存在するが,変動パターンは存在しない.DataCは負荷条件および変動パターンともに履歴データ内に存在しないが,比較的似通ったデータは存在する. DataBとDataCに該当する検証データがそれぞれ3組ずつしか用意しなかったが,もっと多くの検証データを準備すべきであったと思われる. (3) 類似性の指標としてユークリッド距離を用いた場合には,概ね良好な結果が得られ,マハラビノス距離を用いた場合には,良好な結果が得られない場合もあった.このこと自体は1つの成果であり,データベースモデルを正常状態予測に適用する場合には,類似性の指標としてユークリッド距離を用いる方が望ましいと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 前年度,ボイラープラントの正常状態予測がある程度可能であることが示唆されたので,H27年度は,正常状態予測についてさらに検討するとともに,異常検知の可能性についても検討する. (2) 酢酸ビニル製造プラントは定常運転を基本にしているため,季節変動や原料の変動によって状態が揺らぐ程度の正常状態のあるはずである.まずは,状態が揺らいでいる定常運転データをシミュレータを使って作成する.その後,データベースモデルを利用してそのような揺らぎの状態を適格に認識できるかを検討する. (3) ソフトセンサーの目的変数はリアルタイムで測定されていなく間欠的な分析等で測定値が得られる出力変数であり,説明変数はリアルタイムで測定されている入出力変数から選択された変数である.従って,レコードの定義を変更することによって比較的簡単にデータベースモデルの考え方をソフトセンサーに応用することができる.なお,一般的に利用されているソフトセンサーは目的変数毎にモデル式が構築されているが,DBモデルを利用する場合は,複数の目的変数を同時に処理することも可能である.その点を踏まえてソフトセンサー用にシステムを改良する.検証には酢酸ビニル製造プラントの正常運転時の履歴データを用いて.反応物濃度などを目的変数とする. (4) 既に某石油精製会社から頂いた4年間の運転実績データがある.最初のスタートアップと最後のシャットダウンの他に,トラブルでの部分停止なども含まれている.運転の仕方としては,酢酸ビニル製造プラントと同様に定常運転であるが,データベースに格納する履歴データを選定するための前処理(正常状態として採用すべきデータであるかの判定,測定器の不調などによる外れ値の処置など)を行う.その後,主としてソフトセンサーとしての有用性を検証するために,最も良く用いられているソフトセンサーであるPLSモデルとの比較検討を行う.
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