研究課題/領域番号 |
26420785
|
研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
谷池 俊明 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 准教授 (50447687)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 第一原理計算 / 遺伝子アルゴリズム / 非経験的構造決定 / 固体触媒 / ナノ触媒 / 重合触媒 |
研究実績の概要 |
近年の計算機や第一原理計算の発展によって複雑な材料の高精度なシミュレーションが可能となった一方、第一原理計算の限界は物理化学的な直感や実験結果に基づいて初期構造を推定する経験的な過程にあった。特に、固体触媒に代表される複雑な材料では、取り得る構造の可能性が大きく、確からしい分子モデルを直感と経験によって決定することが困難である。本研究の目的は、第一原理計算を組み込んだ遺伝子アルゴリズムを基盤として、固体触媒の形態や表面構造、活性種と担体との界面構造、反応条件における表面構造変化といった鍵情報を完全に非経験的に決定する手段を確立することである。具体的な目標は以下の2点である。 1.プログラムの実装と汎用化:遺伝子アルゴリズムを基盤とした非経験的構造最適化を実践するために、(1)乱数に従いながらも見当違いな構造を排除する効率的な初期構造の生成、(2)密度汎関数計算による構造最適化、(3)最適化された構造群の選別・交叉・変異等による世代更新を行う3つのサブルーチンを備えたプログラムを構築する。一元系のAuクラスターから順次プログラムを拡張し、一般的な固体触媒への適用を可能にする。 2.吸着を考慮に入れたプログラムの実装:固体触媒への他成分の吸着は、配位不飽和点の安定化や化学反応を介して触媒の最安定構造を変化させる。一方、遺伝子アルゴリズムを用いた構造最適化において表面への他成分の吸着を取り扱った例はない。プログラムを拡張し、MgCl2への有機ルイス塩基化合物の配位による触媒一次粒子形成過程、ナノ触媒構造の化学環境への動的な応答の解明を行う。 初年度には、Auクラスターを例にとり、一元系に対する非経験的構造決定プログラムを実装した。二年次となるH27年度は、主にプログラムの二元系への拡張、及び、一元系金属クラスターの構造決定において溶媒和効果を考慮するプログラムの実装を完了した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H26年度の一元系用非経験的構造決定プログラムの実装を受けて、H27年度はプログラムの拡張・汎化を目的とした以下の研究を実施し、完了した。 1.Auクラスターの構造分類・構造性能相関解明:ベンチマークとして行ったAuクラスターの非経験的構造最適化は、最終的に得られる最安定構造に加えて、数百から数千の準安定構造を生成した。触媒として最適な構造は、必ずしもエネルギー的に最安定なものである必要はなく、類似構造を多く含む準安定構造を分類し、構造性能相関を整理することが重要であった。そこで、Auクラスターの重心からの平均距離やその分布、平均・局所配位数、アスペクト比、表面原子の配位構造(コーン角など)によって各々の構造をパラメータ化するプログラムを実装し、階層的クラスター分析を用いて構造分類を実施した。その後、各分類を代表する構造の反応性を、一酸化炭素の吸着エネルギーによって評価し、構造性能相関を検討した。 2.非経験的構造決定プログラムの二元系への拡張:重合触媒の担体であるMgCl2一次粒子の構造決定を行うため、プログラムを二元系へ拡張した。一元系の際と同様に、イオン結晶であるMgCl2の各イオンが理想的な格子点(ヘキサゴナル)を占有するという制限を設けた上で、初期構造の生成、構造最適化、選別・交叉・変異を備えたプログラムを実装した。実際に非経験的構造決定を実施し、{104}面を露出した一次粒子構造への収束を確認した。 3.溶媒和効果の考慮: Auクラスターの構造決定に際し、溶媒和効果を考慮する方法論を検討した。クラスター最近傍の溶媒分子を明示的に取り扱い、外圏の溶媒分子を連続誘電体モデル(COSMO)によって近似する方法を用いた。溶媒和エネルギーはクラスターの形態に大きく依存し、溶媒和によって構造間の安定性の順列が大きく影響を受けることが明らかとなった。
|
今後の研究の推進方策 |
H26, H27年度の成果によって、非経験的構造決定プログラムを一元系、二元系、溶媒存在下での一元系まで拡張することに成功した。最終年度となるH28年度には、計画の全工程を完遂するまでに残された以下の研究を行う。 1.重合触媒一次粒子の非経験的構造決定:二元系用プログラムを大きく拡張し、MgCl2担体の構造決定において、触媒成分(TiCl4)・助剤成分(有機ルイス塩基化合物)の吸着を同時に考慮するプログラムを実装する。吸着が可能な表面サイトを自動識別するアルゴリズム、吸着分子を含めた交叉・変異のアルゴリズムの構築が必須である。最終的には、Ziegler-Natta重合触媒の一次粒子の構造決定という目標を達成する。 2.担体上でのAuクラスターの非経験的構造決定:溶媒和効果に続いて、担体表面上でAuクラスターの構造を決定するプログラムを作成する。担体にはTiO2を採用し、スラブモデルを用いて表面を表現する。特に、Auクラスターの担持点を新たな最適化対象として交叉・変異に盛り込むアルゴリズムの構築が必須である。
|