近年の計算機や第一原理計算の発展によって複雑な材料の高精度なシミュレーションが可能となった一方、第一原理計算の限界は物理化学的な直感や実験結果に基づいて初期構造を推定する経験的な過程にあった。特に、固体触媒に代表される複雑な材料では、取り得る構造の可能性(配向空間)が大きく、確からしい分子モデルを直感と経験によって決定することが著しく困難である。本研究の目的は、第一原理計算を組み込んだ遺伝的アルゴリズムを基盤として、固体触媒の形態や表面構造、活性種と担体との界面構造、反応条件における表面構造変化といった鍵情報を完全に非経験的に決定する手段を確立することである。 H26年度には、Auクラスターを例にとり、一元系に対する非経験的構造決定プログラムを実装した。H27年度は、主に非経験的構造決定プログラムの二元系への拡張、及び、一元系金属クラスターの構造決定において溶媒和効果を考慮するプログラムの実装を完了した。最終年度となるH28年度は、前年度に構築したプログラムを用いてAuクラスターの構造決定における溶媒和効果を初めて検討し、以下の結論を得た。 1) 金属クラスターの安定性に対する溶媒和効果を検討するためには、最低でも最近接の溶媒分子の明示的な計算が必要である。一方、境界条件に連続誘電体モデルを用いることで計算コストの大幅な削減が可能である。 2) Auクラスターへの溶媒和効果の大きさはクラスターの形態に大きく依存し、最安定構造は真空下と溶媒存在下で大きく異なる場合がある。溶媒分子の表面吸着だけでなく複数の溶媒分子の表面上でのパッキングや水素結合などの寄与が重要である。 以上の成果をもって、本研究では一元系及び二元系触媒ナノ構造の非経験的構造探索手段を確立し、溶媒分子等の化学吸着がナノ構造に与える影響を検討する手段を提案することに成功した。
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