研究課題/領域番号 |
26420792
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 大知 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50447421)
|
研究分担者 |
太田 誠一 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (40723284)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 医用化学工学 / バイオマテリアル / ハイドロゲル / 止血材 / 癒着防止材 / 腹膜 / 腹腔疾患 / コンジュゲイト |
研究実績の概要 |
腹腔鏡下手術の際に、腹腔内で注入と同時に迅速架橋するin situ架橋ハイドロゲルが、術後腹膜癒着防止材として期待されている。しかし腹膜側は組織接着性や止血性を、腹腔側は組織接着阻止性と、材料の裏表でトレードオフとなる機能を要求され、単一素材の開発と適用では性能向上の限界に達している。本研究では化学工学のシステム的発想に基づき、臨床現場で、腹腔内in situ、ワンショット投与で、複数のゲル化材料がマルチレイヤーに積層一体化したゲルを創傷部に迅速形成させ、各層が適切な機能を分担して発揮することにより、格段に性能が優れた次世代癒着防止材を開発することを目標としている。 本年度は異なったゲルのスプレー散布によるマルチレイヤー化の検討を行った。デバイスとして、フィブリン糊の散布に用いられるスプレーデバイス(アトマイザー)を用い、ハイドロゲルにA液としてアルギン酸、B液として塩化カルシウム水溶液を含むカルボキシメチルセルロース(CMC)をモデル物質として用い、A液とB液をアトマイザーから噴霧し作製される液滴やハイドロゲルの評価を行った。窒素気流速度を3,5,7L/minで変化させ、スプレー距離を5,10,15cmで変化させて、操作条件を変えた時の、液滴径や2液の混合度を評価した。最大気流速度で、液滴径は10μm程度まで微粒化しており、膜厚が200μm程度までのゲル薄膜を積層することが可能であることが示唆された。さらに第1層には、A液にアルギン酸にB液にゼラチンを用いたダブル架橋混合ゲルを用い、第2層にはA液にアルギン酸にB液にCMCを用いたゲルを積層することに成功した。第1層と第2層のハイドロゲルは両方ともカルシウムイオンで架橋することでシームレスに接合し、両者を蛍光色素や食用色素で可視化することで、2層構造となっていることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年間の研究期間の間で、止血能を持つハイドロゲルの開発(1年目)、止血能と癒着防止能を持った2つのハイドロゲルのマルチレイヤー化技術の開発(2年目)、腹膜癒着形成モデルを用いた動物実験による検証(3年目)と、3段階で研究を進めることを目標としている。初年度は止血効果を持つハイドロゲルの開発に取り組み、良好な成果を得た。2年目の今年度は、マルチレイヤー型ハイドロゲルの作製法として、本研究ではスプレー式投与を用いて2種類のゲルを逐次形成させて積層し、2つのハイドロゲルに同様の架橋反応を用いることで、2層がシームレスに連結したゲルをin situで形成できるプロセスの開発を検討した。高分子合成に時間がかからず、安価なモデル物質として、アルギン酸を用いることで、研究を加速し、二層構造が得られることを実証した。液滴径の制御や噴霧膜厚の制御を行わなければ、連続操作で2層構造は得ることが難しい。2層化するためスプレー噴霧プロセスにて2層構造のハイドロゲルを構築した例は、研究者らが知る限り、存在しない。
|
今後の研究の推進方策 |
研究者らは、東京大学附属病院・肝胆膵外科と共同研究で、肝切除による重症度の高い動物癒着モデルを構築し、臨床で標準治療のシート材料(Seprafilm)やヒアルロン酸ハイドロゲルHAXを適用したが、いずれも十分な癒着阻止能を持たず次世代材料の開発が必須であることを示してきた。また、止血材であるフィブリン糊を肝切モデルに癒着防止材として投与した際に、癒着を増悪化させる場合と、癒着を阻止する場合があることを明らかにしてきた。 研究計画はほぼ順調に遂行しており、最終年度は、初年度に開発したHAX-PolyPやゼラチンを骨格として止血性を持ったシッフ塩基形成架橋ハイドロゲルと、HAXを、2年目に開発したマルチレイヤー化技術を用いて積層化し、ラット癒着モデルにて癒着防止効果の検証を行う。またin vitroにおいては中皮細胞のスクラッチアッセイを用いて、マルチレイヤーハイドロゲルの第1層と第2層において、中皮細胞層の回復速度が異なることを実証することを目標とする。
|