研究課題/領域番号 |
26420794
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
黒澤 尋 山梨大学, 総合研究部, 教授 (10225295)
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研究分担者 |
望月 和樹 山梨大学, 山梨大学・総合研究部, 准教授 (80423838)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞周期同調 / ノコダゾール / 未分化性維持 / 細胞均一化 / 低酸素 |
研究実績の概要 |
ヒトiPS細胞の品質を安定化させ、分化誘導の再現性と効率を高めるには、iPS細胞の品質を均一化する必要がある。本研究では、細胞の品質を揃える試みとして、微小管形成阻害剤である低分子化合物Nocodazoleを用いてヒトiPS細胞の細胞周期同調を行った。さらに、低酸素環境下における培養によりヒト iPS 細胞の未分化性へどのような影響があるのかに ついて検討した。 ヒトiPS細胞(201B7, RIKEN BRC)をOn-feederおよびFeeder-free条件下で培養して得たiPS細胞コロニーをNocodazoleで処理した。Nocodazole処理後に細胞を回収し、PI染色による細胞同調度合の確認と関連遺伝子の発現量解析を行った。また、ヒト iPS 細胞を 酸素濃度(1%、2%、 18%)環境下で生育させ、生育状況と関連遺伝子の発現量解析を行った。 Feeder-free条件下で24時間のNocodazole処理(濃度200-800 ng/mL)を行うと、濃度依存的にコロニー形態の異常が見られ、Nocodazoleの細胞毒性が確認された。G2/M期で同調した細胞の割合は、Nocodazole濃度400-800 ng/mLで処理した場合に最大化した。Nocodazoleが細胞毒性を示すことを考慮して、細胞同調に必要なNocodazole濃度を同調効果が得られた低濃度側の400 ng/mLと決定した。また、細胞周期同調の再現性と細胞収量を考慮して、Nocodazoleの処理時間を8時間とした。 低酸素環境下で培養すると、初期分化関連遺伝子や低酸素関連遺伝子の遺伝子発現量が高くなることがわかった。このことはiPS細胞が低酸素環境によるシグナルを受けて応答していることを示している。しかし、当初期待した低酸素による未分化性維持効果は確認できず、むしろ低酸素環境に分化誘導現象がみられた。今後は、分化誘導シグナルとしての低酸素環境に注目し、低酸素環境下でヒト iPS 細胞がどのような分化傾向を示すのかを確認していきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は同調培養と低酸素培養の条件を個々に最適化することを目指した。当初の達成目標は、同調培養によって細胞周期とエピゲノム状態が揃った細胞を取得すること。低酸素培養によって、未分化性を維持しつつ、良好な細胞増殖を可能にすること、であった。 平成27年度の検討によって、Nocodazoleによる細胞同調の最適条件はおおよそ決めることができた。しかし、そこに至る過程でfeeder細胞がNocodazoleの効果を減殺するという予想外の問題が生じ、これを解決するための検討を追加実施する必要があった。無feeder下でのヒトiPS細胞の培養条件を確立し、Nocodazole処理によるヒトiPS細胞の同調には成功したが、細胞同調処理後の細胞の品質評価を実施することができず、目標の達成は不十分であった。 低酸素環境下でのヒトiPS細胞の培養法は確立したが、当初考えていた低酸素条件(5%O2)では、未分化性維持効果は得られなかった。そこで、さらなる低酸素環境(2%O2)を含む種々の低酸素条件を試みたが、適切な条件を決めることができなかった。しかし、低酸素環境下で培養すると、初期分化関連遺伝子や低酸素関連遺伝子の遺伝子発現量が高くなるという知見は得られた。
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今後の研究の推進方策 |
Nocodazoleによる細胞同調の最適条件はおおよそ決めることができたので、今後は細胞の品質評価を実施する。細胞品質を評価する指標として、DNAのヒストン修飾の状態を用いることとする。修飾ヒストンのゲノム上の局在をクロマチン免疫沈降法にて解析する。すなわち、エピジェネティックな面から細胞品質の評価を試みる。 低酸素による未分化性維持効果は確認できず、むしろ低酸素環境に分化誘導現象がみられた。よって、今後は、到達目標を修正し、低酸素によりヒト iPS 細胞がどのような分化傾向を示すのかを明らかにし、低酸素を分化誘導因子として積極的に活用することによって、iPS細胞の実用化に貢献できる研究成果を得たいと考えている。
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