バイオマスの有効活用は循環型クリーンエネルギーを創出する上で欠かせないテーマである。本研究では、バイオマス由来の有機物が持つ化学エネルギーを電気エネルギーに変換するバイオ燃料電池に焦点を当てた。微生物を利用して電気エネルギーを回収する微生物燃料電池(MFC)は、まだその出力レベルは低いが、直接利用可能な電気が得られ蒸留工程などを必要としない点では大きな魅力がある。また、有機物を二酸化炭素と水まで酸化してそのエネルギーを回収できれば、有機物からのエネルギー回収率は代謝中間産物のバイオエタノール生産より高くなる。出力は電池を構成する電極や溶媒などの各要素の改善により総合的に向上し、微生物触媒はそれらの中でも重要な要素である。本研究では、グルコースを燃料とし大腸菌を触媒としてその改善を進めた。具体的には、出力に影響する遺伝子変異を明らかにし、プラスに働く変異を組み合わせ、触媒能力として最も高い微生物の開発を進めた。 解糖系から他の経路に分岐する反応や、TCAサイクルによる分解反応に対し逆に働く反応に関わる遺伝子を、染色体上の遺伝子挿入部位として選択した。また、TCAサイクルの律速酵素や電子伝達に関わる遺伝子を導入し、それらを過剰発現する株を構築し出力を評価した。さらに、測定前後のグルコース量を測定し、燃費に相当するクーロン効率を算出した。その結果、遺伝子の欠損により出力やクーロン効率の向上が見られる株や、過剰発現により向上が見られる変異株を得た。さらに、それら変異を染色体上で組み合わせた株を構築しその影響を調べた。フマル酸還元酵素複合体の一つであるfrdAの位置にNDHⅡの遺伝子ndhを導入すると出力が向上し,これをベースに染色体上の変異をさらに組み合わせた。これまでに、大幅な出力の向上までは見られていないが,出力とクーロン効率の両方が向上する株が得られている。
|