研究課題
本研究では,ゲノム編集技術として近年注目を集めている TALENs (transcription activator-like effector nucleases) を用いて,シロイヌナズナ中で植物の有用二次代謝物であるリグナン類の生合成に関わると想定される配糖体化酵素 UGT71C サブファミリーの生理的機能を明らかにすることを目的とする.UGT71C サブファミリーのうち,UGT71C1 および UGT71C2 は二番染色体上に,UGT71C3, UGT71C4, および, UGT71C5 は一番染色体上に,いずれもタンデムに座位している.従って,従来の方法では,多重変異体の取得が困難であった.植物の染色体上には,これらのように機能が重複していると考えられる遺伝子群が隣接して存在する例が多数知られており,ゲノム編集技術によってこれらの解析が可能であることを示すことで,植物二次代謝研究への貢献が期待できる.本年度は,UGT71C1-UGT71C5 の五遺伝子の ORF すべてについてエントリーベクター,および,大腸菌での発現ベクターの構築を終了した.さらに,これらの遺伝子産物を大腸菌内で発現させた.UGT71C1 以外の遺伝子産物については,可溶性画分での発現が確認できなかったものの,不溶性画分における発現が確認できた.また,UGT71C1,および,UGT71C2 をノックダウンするための TALENs を導入するためのベクター二種の構築を終了した.アグロバクテリウムを介したフローラルディップ法により,これらの TALENs をシロイヌナズナに導入した.薬剤耐性マーカーを用いて,それぞれの形質転換体を取得した.これまでに,複数の T0 ラインから T1 種子を採取した.今後これらの形質転換体の代謝分析を進める.
2: おおむね順調に進展している
シロイヌナズナのリグナン類の生合成のうち,特に初期の配糖体化に関わることが想定される UGT71C1, UGT71C2, UGT71C3, UGT71C4, および,UGT71C5 の五遺伝子の ORF すべてについてエントリーベクター,および,大腸菌での発現ベクターの構築を終了した.さらに,これらの遺伝子産物を大腸菌内で発現させた.UGT71C1 以外の遺伝子産物については,可溶性画分での発現が確認できなかったものの,不溶性画分における発現が確認できた.可溶性画分での発現を達成するため,分子シャペロンとの共発現系などを構築した.しかし,現在までには可溶性画分における発現は確認できていない.また,UGT71C1,および,UGT71C2 をノックダウンするための TALENs を導入するためのベクター二種の構築を終了した.アグロバクテリウムを介したフローラルディップ法により,これらの TALENs をシロイヌナズナに導入した.薬剤耐性マーカーを用いて,それぞれの形質転換体を取得した.これまでに,複数の T0 ラインから T1 種子を採取した.
大腸菌で発現させた UGT71C1-UGT71C5 について,それらのリグナン類に対する糖転移活性を評価する.糖供与体として UDP-グルコース,糖受容体としてのリグナン類はシロイヌナズナ中に比較的多量に存在するピノレジノール,および,ラリシレジノールを用いる.さらに,昨年度,他の研究グループから UGT71C5 がアブシジン酸代謝に関わることが報告されたため,念のためこの点についても,評価を行う.取得した T1 種子について,PCR による TALENs の影響評価を行う.遺伝子の切断,ノックアウトが検出できた種子については,WT との掛け合わせと自殖後代を繰り返すことにより,目的とする遺伝子ノックアウト体の取得を目指す.同時に,UGT71C サブファミリーの多重変異がリグナン類の代謝に及ぼす影響を評価する.評価には,研究代表者らによって構築済みの LC-MS/MS によるプロファイリング系を用いる.また,リグナン類以外の化合物,特にフェノール性化合物についての影響も同時に解析する.代謝物,あるいは,表現系に WT と比較して顕著な差異が観察された場合には,遺伝子の再導入などを行い表現系などが回復するかどうかを確認する.
概ね予算通りの執行を行ったが,消耗品費に関し多少の残余金が生じた.
残余金は消耗品費として執行する.
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Plant Biotechnol.
巻: 31 ページ: 561-566
10.5511/plantbiotechnology.14.0910a