研究課題/領域番号 |
26420802
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
阿野 貴司 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (80202654)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 微生物燃料電池 / バイオリアクター / 二次代謝 |
研究実績の概要 |
食糧生産の要は農業であり、その根源は肥料と農薬の使用にある。肥料、農薬ともに石油資源に依存するため、今後の石油資源の高騰や枯渇への対策として、バイオマスに依存する持続可能な農業が模索されている。 このような背景の中、本研究では、植物の病原性微生物である糸状菌の抑制能を持つ微生物を用いた微生物燃料電池MFC(Microbial Fuel Cells)の開発を目的として研究を行っている。用いる微生物には植物病原菌の抑制活性があるため、増殖した微生物菌体、代謝産物を含むアノード槽の廃液、抽出される二次代謝産物のすべてが利用形態の異なる有効利用の可能性がある。 先ず、植物病原性糸状菌に対して強い抗菌活性を示す菌株を用いた微生物燃料電池の構築を試みた。微生物燃料電池のアノード槽は、静置培養となるため、発電に用いる微生物の静置培養と振盪培養における抗菌活性物質生産量の比較をバイオアッセイにより行った。その結果、幅広い抗真菌活性を示す抗菌物質生産菌において、静置培養と振盪培養における抗菌活性が同等あるいはやや強いという結果が得られ、アノード槽の培養に適しているという結果が得られた。そこでこの菌を用いて微生物燃料電池を構築したところ発電が認められた。アノード槽にメディエーターとしてメチレンブルー(MB)を添加したところ、無添加時に比べて発電量の増大が認められた。 この条件下において、抵抗を繋いだ発電時と開回路時の抗菌物質の生産性についての比較を行ったところ、発電時の方が開回路に比べて抗菌活性が同等かあるいはやや強いという結果が得られた。発電により菌体内電子が減少するため、抗菌物質生産にとってマイナスの影響が出ることが予想されたが、本菌の場合、影響がないか増大するという結果が示されたため、他の微生物や抗菌物質の生産においても同様の傾向が認められるのかという興味深い発見となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先ず、初年度の目標である植物病原菌に対して抗菌活性を示す微生物による微生物燃料電池の構築は可能かという点において、抗菌活性を示す物質生産と発電の両方が確認されたことからおおむね順調に進んでいると判断した。しかも、抗菌活性を示す微生物による燃料電池を構築したところ、抵抗を繋いだ発電時と開回路時の抗菌物質生産の比較において、発電時の方が開回路に比べて抗菌活性が同等かあるいはやや強いという結果が得られた。これは、発電により菌体内還元力の流出が起こり抗菌物質生産にとってマイナスの影響が出るのではという予測と逆の結果であり、他の抗菌物質生産微生物においても同様の傾向が認められるのか否かという興味深い問題提起がなされた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、抗菌活性を示す微生物と燃料電池の作動条件の改良により、発電効率を目指す。また、その高い発電効率を示す条件下における抗菌物質の生産能についても比較を行う。そして、発電と物質生産の良好な状態が得られれば、その条件下において電極付着菌と浮遊菌との発電に対する寄与率を求めることで、発電のメカニズムを調べさらなる効率の上昇をはかる。
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次年度使用額が生じた理由 |
抗菌活性を示し発電能力の高い微生物の条件検討やさらに強い抗菌活性を示す微生物の探索等、基礎的な条件検討に時間を使ったため、時間のかかる実験が多く結果として次年度使用分が増えることとなった。しかし、これはより良い微生物の探索等に時間を割いた結果であり、実験のフェーズが少しずれただけで今年度の使用はむしろ増大すると思われ、適切な使用額となることが予想される。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度の物品費が残されているが、この物品費を用いて微生物の発電能力と抗生物質生産の向上実験の検討を行う。具体的には、微生物の培養基、発電実験に必要な消耗品、抗生物質の測定に必要な溶媒等に用いられる予定である。
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