世界的な人口増加に伴い、持続可能な食糧生産は重要な課題となっている。本研究では微生物燃料電池(MFC)の新規利用方法の検討として、発電を行いながら有用物質の生産を試みた。有用物質生産菌としてはスクリーニングにより得られたKSとDEを用いて別々のMFCを構築し、発電による有用物質生産への影響を検討した。 スクリーングされた両菌はともにグラム陰性菌であり、低栄養から高栄養まで、幅広い栄養条件下で良好な成長を行うことが出来た。また、広範囲の抗真菌スぺクトルと強い抗真菌活性を示すことが知られているピロールニトリンを生産し、苗立枯れ病の原因である植物病原菌Rhizoctonia solaniの成長をin vitroで抑制することができた。MFCの簡素化と低価格化のためメディエーター無添加の条件でも発電および物質生産が行われたため、植物体を用い、発電後及び、非発電後の培養液による植物病感染防除試験を行った。その結果アノード槽の廃液を添加したポットでは感染は見られず、植物病原菌から植物体(キュウリ)を防御したことが示された。また、DE株の培養液を塗布する事によるキュウリへの悪影響は見られなかった。 このことから、発電を伴う培養を行ったDE株の培養液も、植物病原菌から植物を防御する微生物農薬としての利用可能性が示された。廃棄物利用の可能性を探るため米糠およびモデル物質としてポリペプトンのみを基質とするDE株のMFCの性能評価と抗真菌活性試験を行ったところ、ポリペプトン添加条件ではコントロールと同程度の電力を示した。しかし、米糠添加時では濃度の増加に伴う電力生産の増加は認められず、抑制能力も減少したが、米糠による発電、抑制物質生産が行われた。これらのことから廃液をアノード槽に連続的に注入することで、アノード廃液を微生物農薬として用い、かつ廃液処理と電力生産を同時に行うことの可能性が示された。
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