研究実績の概要 |
本研究では,人工衛星用誘電体材料の極低温下における電荷蓄積特性を解明することを目的にしている.平成26年にはGM冷凍機を,平成27年度には温度調整システムを導入した.平成28年度は主にデータ処理用のPCやヒーターを購入した.試料温度は最低20Kまで冷却することができた.極低温に保持した宇宙機用誘電体材料(カプトン)に20 keVの電子線を照射し,内部に蓄積した電荷によって生じる表面電位の時間履歴を取得し,その減衰自邸酢から誘電体の導電特性を表す体積抵抗率を計算した.試料温度を20, 40, 60, 100 Kとした場合の表面電位履歴を取得し,体積抵抗率を計算した結果,すべての試験条件において,室温時の体積抵抗率(5.5×1016 Ωm)に比べて1から3桁大きな値が得られた.体積抵抗率が上昇したということは蓄積した電荷の移動度が減少し,表面の電位が長時間に渡り高電位を保持していることを意味する.これは宇宙機表面における静電放電のリスクを上昇させる危険な状況であるといえる.体積抵抗率の温度依存性についてモデルによる検討を行った結果,常温域において使用されている温度の逆数に比例したアーレニウス型の依存性については極低温域では使用できず,試料内に蓄積した電荷の伝導がホッピング伝導に支配されるというモデルにより近い結果となった.具体的には温度の-1/4乗に比例する体積抵抗率変化を得ることができた.本研究成果により,宇宙機に使用されている誘電体材料が極低温下で高い抵抗値を示すことが判明し,その温度依存性が明らかになった.これにより,極低温下で運用する宇宙機は材料選定や帯放電現象を抑制する手段を講じる必要があると考えられる.
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