振動する構造物に取り付けた圧電素子に蓄えられた電圧の極性を、振動の位相に応じたタイミングで圧電素子にコイルを短時間接続することにより反転させることにより、振動エネルギを電気エネルギとして蓄え、更にその電気エネルギを制振に利用する、所謂エネルギ回生型準能動的制振手法はこの10余年の間に適用性の高い制振手法に育ってきた。本研究では、その手法の高い性能を十分に引き出すために、圧電素子やコイルの最適な選定及びそれらの最適組み合わせ、さらには圧電素子等そのものの最適化について研究を行った。 この制振システムが定常状態で散逸するエネルギは、上記の電圧反転前後の電圧比(以降電圧反転係数と呼ぶ)に大きく依存し、この電圧反転係数は圧電素子とコイルを含む回路のインピーダンスに依存することから、種々の圧電素子とコイルを用いた実験結果より、板状の圧電素子とコイルについてそのインピーダンスを表現できる数学モデルを構築し、これを用いて圧電素子の板厚/断面積比、圧電素子とコイルへの質量配分等についての最適化を定式化し、解を示すとともに、最適化により制振性能が数倍となる具体例をも示した。更に、定常状態を想定した本最適化が、現実には過渡的な自由振動等の制振性能の向上にも有効であることを示した。 更に、積層型圧電素子を用いた一部の実験結果は上記のモデルでは有意な誤差が生じることも明らかになり、今年度は、研究期間を1年延長して原因を調査した。その結果、圧電素子を比較的高電界強度(数百kV/m)下で使用した場合には、当初想定していなかった圧電素子の非線形性による影響が有意となることを見出したので、各種非線形性の測定を行い、数学モデルに取り込んだ。これを用いて実用上実測値と一致する電圧反転係数を算出できることを示すなど、非線形性の影響下での最適化への道筋をつけた。これにより当初計画以上の成果を上げることができた。
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