研究課題/領域番号 |
26420824
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
三村 治夫 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 教授 (90190727)
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研究分担者 |
矢野 吉治 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 教授 (10174567)
広野 康平 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 准教授 (80346288)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | フジツボ / 付着期幼生 / 運航の経済性 / 青色LED光 / 放射光照度 / 走光性 |
研究実績の概要 |
船体粗度が付着生物の成長などで増加すると、運航の経済性が顕著に減少する。付着生物の船底への着生を毒性物質を使用せずに阻止する取組みは、運航の経済性向上のみならず、海洋環境保全の促進に有効である。 【具体的内容】 発光ダイオード (LED) 光源を利用したフジツボ付着期幼生 (キプリス幼生) の着生制御実験を実施した。海水に浸漬した付着板の板面上の照度値が、青色LED光源使用時、概ね500 W m-2以上の領域をキプリス幼生は忌避する傾向がある (初年度の実施結果参照)。この結果を踏まえ、省エネルギーに考慮し、常時照射と常時非照射を対象実験とし、発光期間を30秒に固定し、消光時間を10秒、30秒、60秒に変えた明暗サイクルで着生忌避実験を実施した。その結果、常時照射した場合、光源直下領域への着生率が0.09 (% cm-2) であったのに対し、30秒照射‐30秒非照射及び30秒照射‐60秒非照射サイクルでは、着生率は、それぞれ0.02及び0.04 (% cm-2) であった。いづれの値も、常時非照射時に得られた着生率0.37 (% cm-2) と比較すると、顕著に小さい値であった。 航路付近の海域に棲息するキプリス幼生の種及び個体数分布の実態を調査した。2015年9月の研究航海で採取した海水試料を対象に、フジツボ幼生の個体数を顕微鏡下に計数した。加えて、15種類の種特異的プライマーを用いた定量リアルタイムPCR解析を行い、種ごとの個体数を推定した。保存しておいた試料(2013年と2014年に寄港地及び航行時に採取した試料)を対象に、同様の解析を実施した。その結果、ノープリウス及びキプリス幼生は海岸線から約12.0 km以内の海域に多く棲息していることがわかった。西日本域内の航行海域では、アメリカフジツボ幼生が、出現頻度と検出個体数ともに最も多かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
航路及び寄港地に棲息するフジツボ付着期幼生(キプリス幼生)の棲息分布域を、これまでに採取した54試料の解析結果から、海岸線からの距離とその海域に棲息する個体数の関係として図示することができた。入港時間調整のための減速航行やドリフティングを避けたい海域を「海岸線から約12.0 km以内」と定量できたことは、本課題研究の成果である。 一方、放射照度の高い青色LED光を使用した場合、照射領域の周辺に放射照度が弱い領域ができ、その領域へキプリス幼生を誘引・着生させてしまう「負の効果」が観察された。この領域をなくすには、船体全体を均質な高放射照度で被覆する必要があり、これは実用的でない。電力消費量が少ないLEDの特性を活かした船体防汚の実用化を目指すため、高放射照度で使用する青色LEDの個数を減らし、高放射照度でも誘引効果の高い橙色LED光源と組み合わせて、キプリス幼生が光源へ走向する性質を利用した、「高効率に船体への着生を防ぎ、かつ省エネルギーにも配慮した着生制御装置」の開発へつなげたい。
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今後の研究の推進方策 |
LED光を利用した船底への付着期幼生 (キプリス幼生) の着生制御を効率良く行う方法を開発するため、青色LED光源と橙色LED光源を併用した着生制御実験を行う。 航路に沿った海水試料の採取を継続して実施し、顕微鏡観察及び定量リアルタイムPCR解析を行い、船舶運航にかかわる入港時間調整を行っても生物汚損を起こさない「海域マップ」の精度の向上を継続する。
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