研究課題/領域番号 |
26420827
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 太氏 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70432854)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 計画・設計・生産システム / 労働安全 / リスク評価 / モニタリング / 作業 |
研究実績の概要 |
近年、産業界へ導入が進む労働安全衛生マネジメントシステムOHSAS18001では、「事業者は労働安全の実績を定期的にモニタリングおよび測定するための手順を確立し維持すること」を求めている。一方、造船所の労働安全管理の現状は、労働災害のハザード(潜在危険)の同定やそのリスクの評価は、管理者の経験や言葉によるあいまいな分析が多い。本研究では、作業安全に関わるハザードのリスクを定量的にモニタリングすることを目的に、作業する作業者の動画像の画像処理による造船工場の作業・安全状況の定量的な評価と、画像処理に有効な動画像の撮影方法に関する検討を行う予定である。 はじめに、画像からの3次元空間における位置情報の取得の検討を行い、続いて、実際の造船工場で撮影実験を行う。最後に、画像から得られた人・物の移動軌跡の分析から、造船工場の作業・安全状況を定量的な評価を検討する予定である。 初年度は3次元空間における位置取得を中心に検討を行った。モックアップにおける撮影実験の後、実際の造船工場の現場で撮影実験を行い、位置の推定精度を検討した。画像による3次元の位置の推定方法としては、2方向から撮影する方法もあるが、2台のカメラが必要である。今年度は、対象面積が広い造船工場への適用を考慮して、先に1台のカメラによる位置推定を検討した。ここでは、3次元空間から2次元の画像平面上への射影モデルとして、カメラを通して画像平面に射影する様子を行列で表される写像として扱い、位置を推定した。作業者の位置情報を取得するためのプログラムを開発し、モックアップ、造船工場で撮影したビデオ画像に適用して、手法の有効性を検討・確認した。位置推定の対象とする作業者の部位、対象部位を確実に捉えるための撮影アングル、画像から作業者を抽出するための画像処理方法などを検討した。さらには、実際の造船工場の作業者の安全観測にも適用・検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
作業者の作業安全に関わるハザードのリスクを定量的にモニタリングすることを目的に、作業者の位置情報を取得、作業者の位置情報を用いた作業安全観測とその評価を目標としている。まず、作業者の位置情報の取得については、今年度は1台のカメラによる位置推定の検討を進めた。モックアップと実際の造船工場において撮影実験を行い、作業する作業者の移動軌跡の抽出を試み、得られた移動軌跡について位置推定の精度について検討した。続いて、実際の作業者の移動軌跡を用いて作業者の安全観測にも適用・検討した。 始めに、画像上の作業者の抽出方法を検討した。撮影環境としての造船工場は様々な課題がある。光環境では照度が低いだけでなく、鋼板の切断や溶接に伴う強い光の不規則な点滅などにより光環境の変化が大きい。さらに、一般に画像から動体を抽出する方法は背景差分法が良く知られているが、造船工場では鋼板、部材等の製品だけでなく、大型のクレーン・切断機も移動し、背景が常に変化し、従来の検討では改善が必要であった。本年度は僅か前のフレームを背景とするフレーム間差分法と作業者のヘルメットの色のみを分離する色相分離法を検討した。 次に、画像上の位置から3次元空間の位置を推定する方法について検討した。本年度は1台のカメラ画像から位置推定をするためにホモグラフィ変換法を検討した。実空間の既知の4点と画像上のその4点を対応させる写像のマトリクスを求めておき、画像上の位置の写像として作業者の位置情報を求める。モックアップ・造船工場において作業者の歩行ルートを設定し、移動軌跡を抽出できることを確認した。ここでは、3Dスキャナーで工場などの実空間の3次元の位置に関する地図情報を取得しておき、その座標系を用いて検討した。 造船工場において得られた移動軌跡を作業者の安全観測へ適用し、作業者の足下が不安定な場所での作業頻度について検討した。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度までに画像からの作業者の位置取得だけでなく、作業安全観測への適用の有効性まで検討を進めてきた。今後は改めて、作業者の抽出と位置推定の精度向上を検討するとともに、作業者の識別も検討を進める予定である。合わせて、実際の造船工場における撮影計画、安全観測への適用についても検討を行う。 画像上の作業者の抽出については、個体情報を表す識別マーカーや反射材などを人や物につけて、人・部を抽出・識別することを検討する。識別マーカーについては、マーカーの書式についても比較・検討する。 作業者の位置推定については、1台のカメラによる撮影の検討では、事前に設定した2次元平面内の移動を前提としており、段差が込み入った領域では誤差が課題であった。ここでは、2台のカメラを用いて、モーションキャプチャなどで用いられているDLT(Direct Linear Transformation)法についても検討する予定である。これは精度が良い位置が求められるものの、カメラの準備や人体へのマーカーの取付が必要であり、工場での撮影のようにカメラの設置等の制約がある場所では課題がある。 実際の造船工場における撮影計画については、造船工場の建屋等は広いため、1台のカメラでは映せない。さらに、対象をある程度の大きさで映す場合、1台のカメラでカバーする領域は限られる。ここでは、撮影区画の区割りやカメラの設置場所の検討を行う。 実際の造船工場における安全観測への適用については、例えば、人と機械の移動軌跡について、その軌跡が接近・交差する箇所を抽出し、人と機械の接触のリスクについての検討が考えられる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
作業者の位置取得については1台のカメラの画像による撮影方法の検討を優先的に進め、さらに、実際の造船所の工場における作業安全観測への適用までを優先的に進めたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は2台のカメラによる撮影方法の検討も進めるため、その費用にも充てる予定である。
|