昨年度の実施結果をもとに、今年度は推定値の高精度化と、船舶で計測するドリフトを基準とした、本手法と既存海流予測サービスとの年間の海流推定誤差の比較を行い、効果を検証した。 推定値の高精度化については異常値を出力する船舶やAISレコードの判断と除去、重みを半減させる時空間距離の検討を行い推定に反映した。年間の全国沿岸AIS受信データを用いて沿岸海流を推定し、船舶モニタリングデータで得られるドリフトを正として本推定海流、既存海流予測サービスの推定海流の各誤差を比較したところ、推定のできた海域の平均としては同程度、黒潮流域に特定すると本推定のほうが船舶ドリフトに対する誤差が小さく、優れた推定ができていることがわかった。このため、船舶の航行数が多くかつ航路選定による燃料消費削減効果が大きい海域では、本海流推定手法によるウェザールーティング効果の向上が見込まれる。 一方で、航行隻数が少なかったり海岸受信局から遠いことによりAIS受信データの少ない海域では推定精度が良くないため、推定値の信頼度を示す指数を作成し、これが閾値を超えることができない海域を推定不能とした。この推定不能の領域が内航船の航行海域に含まれるため、既存海流推定に対するデータ同化で沿岸海域全体をカバーする海流マップを提供することを目指すこととした。従来の気象データ同化を参考としたがAISから提供される海流データが海流ベクトルの特定の一成分を表すものであるなど数学モデルが特殊であるため、既存のアルゴリズムがそのまま適用できないことがわかり、29年度からの新規科研費課題として継続して検討する。
|