主にアルミ合金をもちいて、母材に対してオーバーサイズの溶質原子としてMg、アンダーサイズの溶質原子としてSiを添加した試料について、熱時効下における拡張した刃状転位に対する鈴木偏析を調べた。Al-Mg-Si合金を溶体化後、24時間程度200℃で熱時効することで溶質原子を転位に偏析させることを狙ったが、溶体化処理によって低くなった転位密度では、DAP測定の視野に転位が含まれる確率が低いため、200℃時効の途中で10%程度の加工を行うことで、転位密度を高くした後、再度昇温して偏析を促進する手法により、初めて熱時効下での鈴木偏析を3DAPにより観察することに成功した。これまで鈴木偏析を観察するためには転位密度の低い溶体化処理後の試料を、融点の1/2程度の温度から徐々に温度を下げながら炉冷する方法が用いられてきたが、過飽和固溶体を熱時効途中で加工し一定の温度による時効で導入する新しい手法を開発した。 熱時効下においては、積層欠陥部分およびショックレー部分転位へのSiの濃化が認められた。MgについてもSiよりも低濃度の偏析が同じ領域で認められており、定性的にはオーステナイト系ステンレスを重照射した場合と同様の傾向を示すことが明らかとなった。これらの結果、転位の構造に対して、照射下と熱時効下での定性的な偏析の傾向に大きな違いは無いものと考えられるが、照射下では転位の運動や増殖が照射により継続的に起こっている事や、照射促進の偏析が起こることにより熱時効下よりも容易に偏析が起こることが示唆された。
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