国際熱核融合実験炉ITERにおける核燃焼プラズマの閉じ込め性能を評価する上で、異常輸送(プラズマ乱流によって発生する熱輸送)の機構解明が重要な課題となっている。本研究では、近年の実験的研究で定量的に明らかになった水素プラズマと重水素プラズマにおけるエネルギー閉じ込め性能の大きな違いに着目し、異常輸送の同位体効果を第一原理モデル(ジャイロ運動論)に基づくペタスケール乱流シミュレーションによって解明する。さらに、同位体効果の物理機構の理解に基づき、重水素、三重水素、ヘリウムを含む核燃焼プラズマのエネルギー閉じ込め特性を評価する。 今年度は昨年度に開発した運動論的電子モデルを用いて水素プラズマ、および、重水素プラズマにおけるイオン温度勾配駆動(ITG)-捕捉電子モード(TEM)乱流の解析を実施した。予備的な線形解析の結果、水素と重水素でTEMの成長率が大きく異なることがわかった。これは、イオン熱速度と電子衝突周波数の比で特徴づけられる、衝突効果によるTEMの安定化効果が水素と重水素で異なることに起因する。この効果の影響を非線形乱流計算で確認するために、エネルギー閉じ込めの同位体効果が観測されたJT-60Uにおける水素プラズマと重水素プラズマの比較実験のパラメータを用いて数値実験を実施した。この結果、TEMが不安定化しやすい周辺領域において水素プラズマに比べて重水素プラズマの電子温度勾配が急峻化する傾向が見られたが、エネルギー閉じ込め時間に関しては上記実験で観測された閉じ込め改善を説明できるほどの違いは見られなかった。今回の解析により同位体効果における周辺プラズマの重要性が確認できたため、今後、境界条件の改良や周辺プラズマの乱流輸送を含む数値実験に取り組む予定である。
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