本研究の目的は,低線量放射線の健康不安を払拭するため,酸化ストレスに着目して生活環境因子と低線量放射線との健康影響を比較することである。これまで,マウスにアルコール投与またはラドン吸入をさせ,肝機能・酸化ストレス関連指標を分析した。その結果,2000Bq/m3のラドン吸入による被曝は0.5g/kg体重のアルコール投与に相当する極微量な酸化ストレスであることを明らかにした。 平成28年度は,マウスに,0.5,2.0,5.0g/kg体重のアルコール投与,500,1000,2000Bq/m3で24時間のラドン吸入,0.5,1.0,2.0GyのX線全身照射をそれぞれ行い,肝機能と肝臓中抗酸化機能の指標により酸化ストレスを定量・評価した。その際,自己組織化マップ(SOM)を用いてアルコールのデータを視覚化し,そのマップ上にラドンやX線の放射線のデータを配置して比較検討した。 その結果,SOM上では,5.0g/kg体重のアルコール投与では顕著な酸化ストレスを示したが,ラドンやX線による被曝の影響は肝機能に影響を与えない0.5g/kg体重のアルコール投与に相当することが明らかにできた。本実験条件下では, 2000Bq/m3以下の24時間のラドン吸入や2Gy以下のX線照射で受ける酸化ストレスはごく微量であることが分かった。さらに,これらのデータをクラスタリングした結果,2000Bq/m3以下の24時間のラドン吸入や2Gy以下のX線照射のデータはいずれもそれぞれの対照群のデータと同じクラスとなり,またラドンとX線は違うクラスに分けられた。以上のことから,低線量放射線被曝は極微量酸化ストレスに相当し,また放射線の種類により異なる酸化ストレス反応を示すことが明らかにできた。
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