研究課題
予備実験により、固相反応法によって合成したH2Ti4O9材料は比表面積が低いため(< 1m^2/g)、水溶液中のCs+イオン選択捕集に必ずしも適さないことが判明した。そこで、高比表面積(> 100m^2/g)層状チタン酸:H2Ti4O9の合成を目的とした水熱合成システムの開発を行った。最近の研究により、二酸化チタン(TiO2)を、アルカリ性水熱条件下で処理することにより、結晶構造をルチル型から層状構造へ変化させ、H2Ti4O9ナノ粒子を合成する新しい合成手法が報告されている(参考:Journal of Materials Science 39 (2004) 4239)。今回、到達圧力20MPa・到達温度260C・容量120 mlの水熱合成装置(タイアツ硝子工業、ポータブルリアクターTVS-N2-120mlおよび温度コントローラー)を購入し、防爆式のドラフトチェンバー(既存)内部に、新たに水熱合成システムを構築した。CuCl2水和物の加水分解反応を異なった温度・圧力で繰り返すことにより、水熱合成システム動作条件の最適化を行った。その結果、セレンディピティとして、高活性{001}結晶面からなる極薄CuO結晶体(厚み < 10 nm)の合成に成功した。さらに、このCuO{001}結晶体が、白金ナノ粒子を超える優れた排ガス清浄化触媒活性を発揮することを発見した(Adv. Mater. 26 (2014) 4481)。
2: おおむね順調に進展している
本研究の成功の可否は、水溶液中にナトリウムなど異なったイオンとともに溶存したCsイオンを効率よく選択的に捕集することのできるH2Ti4O9材料調整法の確立にある。当初の研究計画では、H2Ti4O9材料を、固相合成法によって合成したKxTi4O9バルク材料のイオン置換によって調整することを予定していたが、予備的実験の結果、このH2Ti4O9材料は、おそらく比表面積が低いため、十分なCs吸着能力を示さないことが判明した。この点を明らかにすることができたのは、今後の研究遂行上、重要なマイルストーンであった。H2Ti4O9材料の比表面積を高めるためには、材料のナノ粒子化が有効である。本年度中、H2Ti4O9ナノ粒子の合成を可能にする水熱合成システムの立ち上げ・調整を完了することができた。本研究は、初期の予定そのままではないものの、着実に目的に向かって進んでいる。
今後第一の目標は、本年度に立ち上げた水熱合成システムを駆使し、H2Ti4O9ナノ粒子の合成することにある。合成された試料は、粉末X線回折・放射光X線光電子分光・透過電子顕微鏡・ICP分析・BET比表面積評価を併用して同定を行い、単一相かつ高比表面積と認められた段階で、Cs吸着試験を行う計画である。研究計画の大筋に変更を加える必要はないと考えている。
当初の研究計画では、本年度中にCs吸着実験に進む予定であり、当該実験に必要とされる試薬などの購入費を計上していたが、研究進捗状況に詳述した通り、吸着材量であるH2Ti4O9の合成をまず行う必要が生じたため、上記購入費の使用には至らなかった。
上記未購入分の試薬は今年度購入する予定である。試薬購入に伴い、上記未使用分予算は滞りなく使用される見込みである。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
Advanced Materials
巻: 26 ページ: 4481-4485
DOI:10.1002/adma.201306055