放射性セシウム同位体による環境汚染が深刻な社会不安をもたらしている。汚染区域からのセシウムの除去には現在、ゼオライトやプルシアンブルーといった金属イオン吸着材料が使用されている。これらの吸着材料は、放射汚染水(汚染区域の除染などに伴って発生する放射性同位体水溶液)からセシウムイオンを捕集・濃縮する能力に優れる一方、放射性セシウムの半減期(30年)を超える長期間にわたりセシウムイオンの漏出を抑える「閉じ込め能力」には乏しい。今後更に増加し続けるものと予想される放射汚染水を前に、放射汚染水から放射性セシウム同位体を捕集・濃縮し、しかも長期間にわたって安定的かつ高濃度に閉じ込めることができるあらたな材料・技術の開発が急務である。 本研究の成果により、水溶液中からのセシウムイオンの吸着・捕集から固化・閉じ込めに至る一連のプロセスを、層状チタン酸塩の結晶構造の次元性制御によって一元的に完遂できることが実証された。具体的には、酸処理を施した層状チタン酸カリウム(K2TinO2n+1)によるセシウム水溶液からのセシウム吸着・捕集から酸化モリブデン熔融塩中での電気分解によるチタン酸固化体へのセシウム閉じ込めまでのプロセスを一元的に完遂することに成功した。とりわけ、一群の層状チタン酸塩の中でも、四角錐TiO5型の構造単位を持つK2Ti2O5の酸処理によって得られるナノシート状材料が、従来知られていた酸処理K2Ti4O9材料よりもはるかに優れたセシウム吸着・捕集機能を発揮するだけではなく、熔融塩電解によるチタン酸固化体への転換と高度なセシウム閉じ込め能力を発揮することを世界に先駆けて見出したこととは特筆に値する成果である。
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