研究課題/領域番号 |
26420875
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
市原 晃 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究主幹 (60354784)
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研究分担者 |
松岡 雷士 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50455276)
瀬川 悦生 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (30634547)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | テラヘルツ / レーザー同位体分離 / 回転励起 / 分子解離 |
研究実績の概要 |
周波数がテラヘルツ領域の光パルスによる分子の励起過程を数値計算するための計算システムを構築した。このシステムを用い、試験分子として塩化リチウム(LiCl)を想定し、計算機シミュレーションを通して同位体分離を実現するためのパルス波形を探った。本年度は、極低温(振動および回転の量子数が0の基底状態)にある2種類のLiCl同位体のうち、1種類の分子だけを選択的に回転励起・解離させるためのパルス波形を求めた。テラヘルツ光をパルス列化し、入射パルスの時間間隔を調整することにより、指定した分子の一部について回転量子数が100以上の高回転状態に励起することができた。この高回転状態に励起した分子に別の高強度テラヘルツパルスを照射することによる解離を想定し、解離が可能となるためのパルス波形を設計し、指定した同位体分子に対して約20%の解離確率が得られることを示した。更に、極低温の分子に適用したパルス列を用いて、温度が70Kで熱分布をとるLiCl分子集団を同位体選択的に回転励起できる結果を得た。また、本研究を応用して、テラヘルツパルス列により回転励起した分子集団を、更に振動励起させるためのパルスの特性についてもシミュレーションを実施して調べた。 基礎理論研究として、同位体選択励起において問題となる、テラヘルツ光パルス列中での分子の回転状態分布の局在化を解析するため、数理モデルを構築した。分布の局在化範囲を理論的に予測するための統一パラメーターを導出し、様々な条件に設定した数値計算との比較を通して、統一パラメーターが正しい予測を与えることを確認した。また、直交多項式により誘導される量子ウォークの解析により、分子回転状態に関する極限分布の弱収束定理を導いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計算機シミュレーションに関して、本科研費予算で購入したワークステーションを使用することにより、計算能力が申請時点と比較して約20倍増強された。計算環境が飛躍的に向上したため、試行錯誤によるパルスパラメーターの探索時間が大幅に短縮された。また基礎理論研究において、テラヘルツパルス列による分子回転励起の上限を予測できる数理モデルを開発した。得られた情報をシミュレーションにフィードバックし、パルスパラメーター探索に役立てた。これらにより、極低温におけるLiClの同位体選択的回転励起・解離のためのパルス波形の設計が終了し、平成27年度の課題であった70KにおけるLiCl分子集団の励起過程のシミュレーションに着手することができた。そして本年度内に、テラヘルツパルス列によるLiCl分子集団の同位体選択的回転励起の可能性が確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に引き続き、テラヘルツパルス列によるLiCl分子集団の同位体選択的回転励起の計算機シミュレーションを実施する。分子ビーム実験が可能と考えられる70KにおけるLiCl集団の励起過程を、シミュレーションの結果を基に分析する。これにより、分子集団の回転状態分布を同位体選択的に高励起側に移動させるために必要となるパルス列の特性が明らかになると考えている。これまでの極低温における計算結果から、回転量子数が70以上の状態に分子を励起すれば、別の高強度テラヘルツパルスを用いてその分子を解離できると予想できるが、この予想を確かめるために、分子解離に対する予備計算を実施する。 基礎理論研究として、昨年度開発した数理モデルの拡張に取り組む。現在は省略されている磁気量子数が与える影響を考慮するための理論構築を試みる。得られた理論モデルを、熱分布している分子集団に適用可能か検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定したワークステーションの価格が予想より低かったために次年度使用額が生じた。また、研究情報収集のため参加した南アフリカ・ダーバンの国際会議出張の旅費が予想よりも低額に抑えられたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
残額は、次年度の学会や研究会参加のための経費と、研究の資料となる書籍類購入の費用に充てる予定である。
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