本研究は、ダイヤモンドを超高空間分解能を有する蛍光飛跡検出器(FNTD)として利用可能であるかどうかを模索するものである。測定原理は次の通りである。まず、窒素不純物を含むダイヤモンドに重イオンを照射すると原子空孔が形成される。熱処理を施すと原子空孔が拡散して窒素不純物と結合し、窒素・空孔(NV中心)が飛跡に沿って形成される。NV中心はたった1つであっても検出可能であるため、高感度に飛跡を検出することが可能となる。H26年度は、ダイヤモンドに高エネルギー重イオンを照射し、熱処理後に共焦点蛍光顕微鏡(CFM)観察することで、飛跡を可視化できることを明らかにした。H27年度は、熱処理条件の最適化に取り組んだ。H28年度は、熱処理条件の最適化をさらに進めるとともに、窒素不純物濃度依存性を調べた。熱処理温度が高くなるに従って飛跡を構成するNV中心の数が増え、飛跡が明瞭に観察されるようになった。NV中心の数が増えることは、残留する原子空孔やそれらの複合体(複空孔)が少ないことを意味する。NV中心の数が高い条件(1000℃・10時間および1200℃・10分間)の内、原子空孔や複空孔が最も少なくなる条件は1200℃で10分間であることが明らかとなった。このように、高温(1200℃)かつ短時間(10分)の熱処理が飛跡検出に適していることが分かった。一方、窒素不純物濃度依存性を調べた結果、濃度が高くなるに従い検出感度が高くなり、10ppbを超えると飽和し、650ppbで最も飛跡が明瞭に観察された。窒素不純物濃度が高すぎると未照射であってもNV中心が存在してノイズ源となるため、検出感度が飽和する数十~数百ppbが最適であると結論づけた。最後に、誘導放出制御(STED)法を用いて光の回折限界を超える空間分解能でイオン飛跡を観察することにも成功し、超高空間分解能を有する蛍光飛跡検出器を実現できた。
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