脳幹のカハール間質核(INC)は垂直系の視線制御に関与しており、眼球速度信号を位置信号へ変換する神経積分器としての役割があることが示されている。本研究では、INCの局所神経回路の様相を明らかし、これまで研究代表者らが明らかにした水平眼球運動系の神経積分器である舌下神経前位核(PHN)での知見を比較することにより、神経積分器の実態に迫ることを目指している。本年度は、局所興奮性神経回路の活性化機構がINCとPHNとで異なるのかについて検討した。記録しているニューロンの近傍に高頻度バースト刺激を与えると、興奮性シナプス後電流(EPSC)の発生頻度が刺激前に比べて有意に増加する現象がINCとPHN両方において観察されるが、PHNではその現象にグルタミン酸受容体のうちカルシウム透過型AMPA受容体(CP-AMPA受容体)が関与していることが明らかになっている。そこで、INCで生じるEPSCの頻度上昇にCP-AMPA受容体が関与するのかを調べるため、CP-AMPA受容体の阻害剤である1-naphthyl acetyl spermine (NAS)の投与によってEPSCの頻度上昇に影響があるのかを調べた。その結果、NASの投与によってEPSCの頻度上昇は減少したが、その減少の割合はPHNにおいて観察された割合に比べ有意に低かった。以上の結果は、EPSCの頻度上昇に対するCP-AMPA受容体の関与はPHNに比べてINCでは高くないことが示唆された。これまで得られた結果をまとめると、INCとPHNでは同じ神経積分器としての機能を持つが、そのニューロン特性や回路構築は異なっており、興奮性回路の活性化機構にも違いがあることが示唆された。
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