研究課題/領域番号 |
26430005
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野口 潤 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40421367)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 樹状突起スパイン / 蛍光寿命画像顕微鏡 / FRET / 2光子顕微鏡 / プレシナプス |
研究実績の概要 |
シナプス可塑性は、記憶・学習の神経基盤であり、特に、大脳錐体細胞のスパインシナプスでは樹状突起スパインの形態変化と連動していることが知られている。シナプス可塑性はシナプス後部(スパイン)機能のみが変化することでも成立するものの、シナプス前部(軸索ブトン)機能と後部の機能がどのように協調するかについては十分解明されていない。本研究課題では、スパインからシナプス前部への可塑性情報の伝達について解析する。 本年度は、実験系の構築を主として実施した。まずシナプス前部機能を調べるため、カルシウム感受性色素タンパク質GCaMP6を発現する発現ベクターを作製した。シナプス前部からシナプス小胞が放出されたときに生じるスパイン内カルシウム濃度上昇をこのGCaMP6を用いて検出できることを確認した。また、GCaMP6を発現するAAVベクターも作製し、シナプス前部活動も可視化できるようになった。 次にFRET (Forster resonance energy transfer) / FLIM (Fluorescence lifetime image microscopy) 法を用いてプレシナプス機能を定量化するプローブの評価を行った。神経伝達物質放出確率上昇に関連するSNARE複合体形成を検出するプローブ(iSLIM)により、シナプス前部機能をシナプスを動作させることなしに可視化することが可能となった。iSLIMを用いることで、スパイン頭部体積とそのスパインに対応するシナプス前部機能が比例的な関係にあることが明らかとなった。これはスパインとシナプス前部が協調的に動作していることを示唆する。以上の結果を日本神経科学学会にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 実験系の確立:本年度は、スパイン内カルシウムイメージングによる、シナプス前部からの神経伝達物質放出を検出する実験系を立ち上げ、再現性・定量性の向上を目論見た。低入力レーザーパワーによって撮像回数を増加させることにより再現性・定量性が向上した。 グルタミン酸イメージング(Marvin JS et al. (2013))によるシナプス前部活動の検出も成功したが、検出感度を考慮して現時点ではカルシウム感受性色素であるGCaMP6sを用いることとした。また、FRET /FLIMプローブ(iSLIM)の細胞内発現を確認し、プレシナプス機能とスパイン体積との間に比例的な関係があることを見出し、日本神経科学学会にて報告した。この項目については遅れは目立っていない。 2. 高浸透圧刺激によるPr 変化の有無の検討: Sucrose 高張液吹きかけによってプレシナプスに機械的刺激を導入してPr が変化することを検討した。ある程度の標本数が得られたので、日本神経科学学会にて報告した。この項目についても遅れは目立っていない。 3. PA-RAC の光活性化によるスパイン体積増加を介したPr 変化の有無の検討:PA(photo activable)-Rac は、small G タンパク質であるRac をLOV およびJ-alphaドメインを用いて不活性化したものである。PA-Rac を光活性化することによりスパイン機能の変化が生じると期待されるが、今期はこれについては標本数を増やして検討することができなかった。来期以降実施する。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の課題を継続するほか、以下の課題に着手する。 ・低Mg2+濃度グルタミン酸刺激(比較的強いシナプス可塑性誘導刺激)によるプレシナプス放出確率(Pr)変化の検討。 ケイジドグルタミン酸のアンケイジングによるグルタミン酸局所投与と低Mg2+濃度を組み合わせ、長期増強とそれに伴うスパイン体積増加を生じさせることに我々は成功している。今回これを適用して、スパインからシナプス前部への情報伝達の解析を行う。 ・シナプス小胞SNARE複合体を検出するプローブによるPr変化の有無の検討。 シナプス前部においてSNARE複合体形成が促進されることによりPrが上昇する。前述のように、シナプス前部におけるSNARE複合体を検出するFRET/FLIMプローブを我々の研究室では開発した(Takahashi, N. et al., (2010) Cell Metab. 12:19-29.)。このプローブを用いることにより、シナプス前部(軸索ブトン)のうち複合体形成の特に活発な地点(推定上のactive zone)を同定することができる。Active zoneの可塑性刺激による動態はほとんどよくわかっていないので、上記と同様に比較的確実にスパイン体積増加を誘導できる低Mg2+, グルタミン酸局所投与法などを用いてスパイン形態可塑性を生じさせ、SNARE複合体の形成が促進されるか否かを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進展の都合により、本年は消耗品の購入価額が予定よりも少なかった。また予定していた北米神経学会への参加を研究実施上の都合で見合わせた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、本年度実施できなかった実験項目の実施により目論見通りの消耗品・消耗備品価額を使用する予定。また、北米神経学会・日本神経科学学会にも参加の予定。
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