研究課題
記憶・学習による神経回路の再編において、シナプスにおける伝達効率の変化(シナプス可塑性)が必須と考えられているが、興奮性シナプスの可塑性にはシナプス後部である樹状突起スパインの形態変化(あるいはスパイン新生)が伴うことが示されている。本研究課題では、その形態変化による機械的刺激がシナプス後部から前部へと可塑性情報を伝達する可能性を検討した。まず、シナプス前部機能を定量化する蛍光プローブを開発し評価を行った。このプローブ(iSLIM)は神経伝達物質放出確率に関連するSNARE複合体形成を検出するために、それぞれ蛍光分子に融合されたsyntaxin分子とVAMP2分子で構成される。プローブの蛍光分子のFRET (Forster resonance energy transfer)を検出することによりシナプス前部機能を検討した。海馬培養スライス標本においてシナプス前部機能をこのプローブを用いて可視化してみると、シナプス前部のふくらみ(synaptic bouton)の一部分にSNARE複合体形成の高い箇所が存在することがわかった。また、スパイン頭部体積とそのスパインに対応するシナプス前部機能は比例的な関係を有していた。さらに、シナプス後部局在タンパク質PSD95と、シナプス前部機能は、近接して局在する場合が観察された。以上からこのプローブの値とシナプス前部機能との相関が示された。sucrose高浸透圧刺激によるプレシナプス細胞膜への機械的刺激によりシナプス前部機能の上昇が観察された。また、可塑性刺激によるスパイン体積増加などの機械的刺激によりシナプス前部機能の変化が生じるという予備的なデータを得ている。また、本年度、シナプス可塑性刺激による細胞骨格制御タンパク質cofilinのリン酸化と可塑性の広がりに関連について論文報告した。
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