研究課題
土壌線虫C.エレガンスの走化性の可塑性(味覚学習)を学習のモデルとして、この学習に必要な新奇遺伝子の機能解析、および学習により行動が変化する神経機構の解明を進めた。1)味覚神経ASERと介在神経の間のシナプス伝達の可塑性が味覚学習の行動の変化を担うことが示唆されている。ASERは伝達物質としてグルタミン酸と複数の神経ペプチドを用いている。またこれまでの研究から、ASERにおいて小胞の放出を促進すると個体は塩濃度が高いほうへ誘引され、逆に小胞放出を抑制すると塩濃度の低いほうへ誘引されることがわかっていた。ASERと介在神経のひとつAIBの間のシナプス可塑性の機構について、グルタミン酸神経伝達因子の寄与を調べた。飼育塩濃度に関わらず、ASERは塩濃度が低下すると活動する。一方、AIBは高塩濃度飼育後にはASERと同様に塩濃度の低下により活性化するが、低塩濃度飼育後は塩濃度が上昇すると活性化する。グルタミン酸神経伝達因子の変異体を用いて応答を観察した結果、このシナプス可塑性はASERのEAT-4(小胞性グルタミン酸トランスポーター)とAIBのGLR-1(AMPA型受容体)に依存することが明らかになった。2)ClC型クロライドチャネルをコードするclh-1が餌と塩濃度の学習に必要なことを明らかにしていた。細胞特異的機能回復実験を行い、clh-1は味覚神経で機能することがわかった。味覚学習に必要な遺伝子の探索を継続し、新たにジアシルグリセロールキナーゼをコードするdgk-1を同定した。dgk-1は神経系で広く発現している。野生型のdgk-1遺伝子を変異体の神経系で発現させると味覚学習欠損の表現型が回復した。線虫のゲノムにはそれぞれ異なるアイソザイムのdgk遺伝子が5個ある。遺伝学的解析から、味覚学習においてはdgk-1とdgk-3が機能的に重複してはたらくことが示唆された。
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The Journal of Neuroscience
巻: 37 ページ: 2097~2111
10.1523/JNEUROSCI.1774-16.2017