これまでに手綱核の過剰活性化を示すマウスはうつ病様行動異常とともにレム睡眠の亢進を引き起こす事を報告している。また、うつ病症状の増悪因子である慢性ストレスを負荷した動物では、手綱核の過剰活性化がストレス感受性を増加させることが示されている。しかし、手綱核の活動性の変化がどのようにして睡眠異常を引き起こすかは、未だ不明な点が多く残されている。本年度は、この問題に取組むため、手綱核により活動性が制御されていると考えられるドーパミンの細胞外濃度を高速測定する技術開発に取組んだ。高い物質特異性を示すマイクロダイアリシス法とボルタンメトリ法を組み合わせて、マウス線条体を標的に細胞外ドーパミン濃度の測定を行った。カーボンファイバーとフューズドシリカで作製した電極は50 nM程度の低濃度ドーパミンをin vitroで検出する事が可能で、内側前脳束の電気刺激に対する線条体における急速なドーパミン放出を検出する事が可能であった。このような一過性のドーパミン放出はマイクロダイアリシス法でも検出可能であったが、時間分解能が低く、行動変化との対応は困難であった。今後、これらのドーパミン測定法を睡眠動態の研究へ応用する事で、慢性ストレスによるうつ病様睡眠障害の神経機構を検討できるものと期待される。
|