研究実績の概要 |
最終年度は、分子層介在ニューロン(MLI)のシナプス可塑性の機能的役割について検討した。これまでの研究では、星状細胞はその小さな形状とプルキンエ細胞(PC)への結合様式から、個々のPCへの平行線維入力の調節を、バスケット細胞は平行線維と直交する方向に伸びる軸索の解剖学的構造から、平行線維のビームを絞る役割を担っていると考えられてきた。しかしMLI同士の抑制もありネットワークを構成していることから、単にそれだけの機能だけとは考えられない。また平行線維--MLI間シナプスには可塑性もあることが知られているが、小脳学習における機能的役割は不明である。 本研究では、強化学習の枠組みであるActor-criticモデルに着目した。その神経回路実装の論文(Barto, Sutton, Anderson 1983)にもとづき、MLIをcritic、PCをactorする強化学習が、小脳皮質で実現されているのではないかという仮説を立てた。 これまでのところ、論文のモデルを再実装し、動作を確認している。典型的なcart-poleタスクを小脳皮質を見立てた神経回路で解くことに成功している。さらに、この神経回路を小脳皮質に見立てるためには、MLI同士のネットワークを考慮して1時刻前の活動が得られるようにする必要があるのと、細胞応答の極性を考慮にいれる必要があるため、現在はその点の解決に取り組んでいる。 一方、小脳と強化学習の関係は近年のホットトピックであり、多種多様な論文が出版されている。それらについてのサーベイを随時行った。 さらに、今後この強化学習にもとづいた小脳回路モデルを大規模精緻化するために、スパコンを用いた高性能な実装を行い、かつ細胞の空間形状まで含めたモデル化の方針を検討した。
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