研究課題/領域番号 |
26430010
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
杉山 清佳 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (10360570)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ホメオ蛋白質 / 臨界期 / 眼優位性 / 視覚野 / Otx2 / 抑制性介在ニューロン |
研究実績の概要 |
子どもの脳には、経験に応じて神経回路を柔軟に形成する「臨界期」がある。これまでに申請者は、ホメオ蛋白質Otx2が経験によって大脳視覚野の抑制性介在ニューロンに運ばれ、視覚の臨界期を制御することを明らかにした。本研究では、Otx2の標的遺伝子としてホメオ蛋白質に注目し、臨界期への関与を明らかにする。ホメオ蛋白質は、生後の脳においても発現することが知られているが、未だ生後脳における役割が明らかになった遺伝子は数少ない。 初年度には、ChIP-seq解析より得られたOtx2標的遺伝子の中から、Otx2変異マウスなどを用いて発現解析(RNA-seq等)を行い、臨界期に関与する候補ホメオ蛋白質のスクリーニングを行った。その結果、①Otx2標的ホメオ蛋白質であり(Otx2が直接クロマチン制御領域に結合し)、②Otx2変異マウスの抑制性介在ニューロンにおいて発現が変化する候補ホメオ蛋白質は、4種類ほどであった。一方、今年度の解析により、さらに例数を増やし解析精度を上げると、これら4種類のホメオ蛋白質は、Otx2が直接発現を制御し得る候補遺伝子から外れてしまった。そこで当初の予定通り、今年度からは候補遺伝子をホメオ蛋白質だけでなく、転写因子全体に広げ解析を行った。すると、神経活動依存的に発現が増減する最初期遺伝子群が、Otx2の標的になることが分ってきた。最初期遺伝子の多くは、シナプス結合の強度や可塑性に関与することが示唆されている。Otx2は最初期遺伝子の発現制御領域において「待機状態(神経活動により即転写を開始できる状態)」を作り出す可能性が推測される。このことは、Otx2が臨界期だけでなく、回路の可塑性に広く関与することを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、ChIP-seq解析より得られたOtx2標的遺伝子の中から、Otx2変異マウスなどを用いて発現解析(RNA-seq等)を行い、臨界期に関与する候補ホメオ蛋白質のスクリーニングを行った。特に、臨界期にOtx2が局在する抑制性介在ニューロンを分取し、発現解析を行うことで、当初23種類あった標的ホメオ蛋白質の中から、4種類まで候補ホメオ蛋白質を絞り込んだ。今年度の詳細な解析から、残念ながら、これら4つのホメオ蛋白質はいずれもOtx2の直接的な標的遺伝子ではないと結論づけられたが、一方で、電気生理学実験から1つのホメオ蛋白質については臨界期に関与することが推測された。このことは、胎児期に重要なホメオ蛋白質が、互いに協調しながら臨界期に関与することを示唆している。 さらに、内在性Otx2の標的遺伝子、特に、生後脳の神経細胞におけるOtx2のクロマチン結合領域についてはこれまで良く分っていなかったが、今回の研究によりOtx2の標的ホメオ蛋白質だけでなく、全クロマチン領域にわたり標的遺伝子の全貌が明らかになってきた。その結果、ホメオ蛋白質以外の転写因子にも、臨界期に関与すると思われる標的遺伝子の存在が明らかになった。特に、神経活動によって発現を変化させ、シナプス形成や可塑性に関わる最初期遺伝子群がOtx2の標的になることが示唆された。本年度の結果から、Otx2が最初期遺伝子の発現に必要な「待機状態」をつくるという概念の着想に至った。このことは、ホメオ蛋白質の転写因子としての役割を明らかにする上でも、大きな成果になった。
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今後の研究の推進方策 |
Otx2と協調して働くホメオ蛋白質の1つについては変異マウスを入手済みである。このホメオ蛋白質は、特に、視覚の臨界期に重要な視覚野第II/III層に強く発現しており、錐体細胞、抑制性介在ニューロン、アストロサイトに発現が認められる。これまでに、視覚誘発電位記録法(VEP)を用いて、変異マウスの視力を予備的に記録した結果、このマウスは正常な視力発達を提示する一方、臨界期の頃に片目を閉じても弱視にならず、臨界期の誘導が起きないことが示唆された。今後、細胞特異的なKOマウスを使用して臨界期の始まりと終わりの時期を解析し、錐体細胞あるいはPV細胞における機能を明らかにする。 さらに、最初期遺伝子の発現制御領域のヒストン修飾を解析することで、Otx2が最初期遺伝子発現の「待機状態」にどのように関与するのかを明らかにする。また、Otx2変異マウスとコントロールマウスにおいて、最初期遺伝子の発現を組織学的に比較検討することで、RNA-seqの結果と細胞特異性を確認する。以上により最終年度には、臨界期においてOtx2と協調して働くホメオ蛋白質の存在と、Otx2の標的転写因子群が明らかになると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
支出予定内訳のうち、研究補助員の長期入院による雇用体制の見直し(60万円)、次世代シークエンス解析機器の混雑による利用時期の延期と利用費の繰越(30万円)、および消耗品費の支出先の見直し(90万円)によって、未執行額が発生した。これらは28年度以降、本研究を推進するために有効に使用する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
未執行額については、以下のとおり当該研究の遂行のために、今年度中に使用する予定である。 次世代シークエンス解析費(27年度中に依頼し、現在は機器使用の順番を待っている状態):30万円、博士研究員の雇用費:150万円
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