研究課題
運動学習を支えるシナプス可塑性である小脳長期抑圧をトリガーする代謝型グルタミン酸受容体mGluR1に対して別種のGタンパク質共役型受容体のアデノシンA1受容体(A1R)やB型γアミノ酪酸受容体(GABAbR)が重合して変調作用を及ぼし、小脳長期抑圧および運動学習を抑制/促進する可能性が示唆されている。ところが、このような変調がmGluR1に連関する細胞内シグナリングに作用する様態は不明であった。本研究では、HEK-293細胞にmGluR1およびA1Rをtet-Opプロモーターを用いて強制発現させた。この細胞のmGluR1連関細胞内シグナリングを、protein kinase C (PKC)の細胞膜移動を指標として測定した。細胞を金薄膜ガラスプレート上で培養し、金薄膜に赤外励起光を照射したときに発生する表面プラズモン共鳴の変化を、標本からの反射光により推定した。TPAで直接PKCを活性化させると、反射光強度が増大した。mGluR1をDHPGにより活性化したときも反射光強度が増大した。この増大反応はプロモーター起動薬doxycyclineや試薬溶媒では誘発されず、PKC阻害剤によって阻害されたことから、mGluR1に連関するPKCの移動を反映したものであることが確認された。R-PIAによってA1Rを活性化した状態ではDHPGによる反射光強度の増大が消失した。このR-PIAの効果はA1Rを発現していない細胞では見られなかった。これらの結果からA1RがmGluR1-PKC連関を阻害することがはじめて示された。さらに5 uMから5 mMの範囲でDHPG濃度に対する反射光のピーク強度の単調な関係と高い濃度における脱感作が観察され、mGluR1-PKC連関の動態を直接測定することに成功した。次年度に向けて、GABAbR, mGluR1を共に発現させたHEK-293細胞株を作出した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の平成27年度の主たる目標は、HEK-293細胞上にA1RとmGluR1の複合体を再構築し、この細胞を標本として表面プラズモン共鳴イメージングを用いた測定を行い、A1RによるmGluR1連関細胞内シグナリングに対する影響を直接観察することであった。金薄膜上での細胞培養、tet-Opプロモーターによる細胞死を低減した強制発現、イメージングの条件設定など、実験技術上の課題を全て解決し、A1RによるmGluR1-PKC連関に対する作用をはじめて直接観察することに成功した。また開発した方法はmGluR1-PKC連関の動態を詳細に検討するためにも有効であり、Gタンパク質共役型受容体の機能解析学に新たなツールを提供することができた。このように所期目標を達成した上、次年度にGABAbRとmGluR1の相互作用に研究を発展させていくための細胞標本の準備も行うことができた。
異種のGタンパク質共役型受容体の複合体化およびそれらの機能的相互作用の理解を深化させるために、GABAbRとmGluR1を強制発現させたHEK-293細胞等と表面プラズモン共鳴イメージングを組み合わせて、GABAbRによるmGluR1-PKC連関への影響を解析したい。また平成27年度の結果によって示唆された可能性に従って、表面プラズモン共鳴イメージングを用いてmGluR1-PKC連関の動態をより詳細に解析したい。
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