研究課題
皮質脊髄路はその途中で複数の神経核に「軸索側枝」を伸ばす。「軸索側枝」は脊髄への出力と同時に複数の神経核に信号を送ることで、脳全体としての神経活動の協調性を実現し、一方で、神経傷害時に傷害領域を越えて伸びることで代償機構としての役割も担う。本研究では、ヒトで高度に進化し、大脳と小脳の協調的な神経活動を担う橋核への「側枝形成」をモデルにその分子基盤を解き明かすことを目的とする。1.平成26年度は、我々がこれまでに、皮質脊髄路起始細胞での網羅的ノックダウン実験から見出した、側枝形成への関与が示唆される候補受容体について、KOマウスの作成をすすめ、そのマウスの脳組織を用いて、軸索側枝への影響を検証した。国内外の研究施設より得た候補受容体のKOマウスおよびその固定脳組織に加えて、3候補受容体に関してはCRISPR/Cas9技術を利用して迅速なKOマウスの作成を行った。各KOマウスについて、DiIトレーサーを大脳皮質運動野に入れ、皮質脊髄路をラベルし、軸索側枝を観察した。すると、その中で、KDによって側枝伸長促進効果がみられた候補受容体は、KOマウスにおいても同様に側枝伸長が促進される傾向が見られた。現在、他の候補受容体KOマウスと共に詳細な解析を進めている。2.受容体候補分子およびリガンドの発現時期、細胞内局在・脳内分布の詳細な解析を行った。今回、解析した中で、1.で述べた、KOマウスで側枝伸長促進効果の観察された受容体は、大脳皮質領野特異的な発現様式を示した。さらに、その受容体に対するリガンドは橋核の特定領域に偏った発現パターンを示したとから、これら分子は皮質領野特異的な軸索側枝の投射パターン制御に関与している可能性が示唆された。候補受容体の一部が、実際に生体内で軸索側枝形成に関与していることを示したことは大変意義深く、次年度以降もその分子機構の解明に向けて研究を進展させる。
2: おおむね順調に進展している
1.受容体候補分子のKOマウス作成及び、軸索側枝への影響を検証する我々がこれまでに行ったスクリーニングより側枝形成に影響を与える候補受容体を得ている。そこで、これら受容体遺伝子に関して、2受容体遺伝子のKOマウス、1受容体遺伝子のKOマウスの脳組織を国内外の研究施設から取り寄せた。また、3受容体遺伝子に関してはCRISPR/Cas9技術を利用して迅速なKOマウスの作成を行い、ゲノムシーケンスによってフレームシフトにより翻訳停止となること、若しくは翻訳開始ATGが欠失していることを確認した。さらに、皮質脊髄路側枝の変化をWTと比較するため、DiIトレーサーを大脳皮質運動野に入れ、皮質脊髄路をラベルした後、矢状断切片を観察した。その中で、KDによって側枝伸長促進効果の観察された受容体のKOマウスにおいて同様に側枝伸長が促進される傾向が見られた。現在他のKOマウスとともに定量解析を進めている。2.受容体候補分子およびリガンドの発現時期、細胞内局在・脳内分布の詳細な解析KD実験で皮質脊髄路への関与が示唆された受容体に対して、in situ hybridization法および、免疫組織化学法によりその脳内分布を調べた。特に、リガンドが既知の場合はリガンドの局在も 同様に調べた。その結果、1.で述べたKDおよびKOマウスで側枝伸長促進効果の観察された受容体は大脳皮質領野特異的な発現様式を示し、その受容体に対するリガンドは橋核の特定領域に偏った発現パターンを示すことが分かった。このことより、皮質領野特異的な軸索側枝の刈り込みや橋核特定領域への軸索側枝の投射パターン制御にこの受容体とリガンドが関与している可能性が示唆された。以上、平成26年度の当初の実施計画に沿った研究を行い、一定の成果を得ていることから、目標に対して、おおむね順調に進展していると判断した。
平成27年度は当初の研究実施計画に則り実施する。具体的にはKDおよびKOによって軸索側枝に影響が見られた候補受容体に対して、候補受容体阻害分子(例えば、内在性のアンタゴニストや、細胞内領域を欠失したトランケート型分子)を作成し、皮質脊髄路神経細胞に発現させ、側枝形成に対する影響を調べる。受容体に対して既知のリガンドが存在する場合は、橋核神経細胞でノックダウンを行う、若しくは脳内に異所性に発現させたときの側枝形成に対する影響を調べると共に、受容体のKOマウスにおいてリガンド分子を橋核や異所性に発現させた場合と比較する。この実験において、 Fezf2-tdTomato(皮質脊髄路神経細胞にtdTomatoを発現する)マウスを用いて観察する。若しくは、DiIトレーサーを生後マウスに微量注入することで迅速にラベルすることで皮質脊髄路を可視化する。本研究は生体内における解析が中心となるが、in vitroでの実験が適する場合もあり、必要に応じて、Fezf2-tdTomatoマウスより初代培養した皮質脊髄路神経細胞を用いた軸索側枝形成実験、脳組織切片のコラーゲンゲル内での共培養実験を行い評価する。
一部の実験について次年度にまたがって研究を行う必要が生じたため、次年度使用額が生じた。
神経細胞トレース用色素、in situ hybridization用試薬類、内在性タンパク質を認識するための抗体作成費、細胞培養に用いる培地・血清、プラスティック器具の費用を計上した。これらは実験遂行に必須の費用である。生体内でのアッセイに用いる妊娠マウスは高価であり実験動物費用を多く計上している。他に、成果発表および情報収集のための学会参加費用、論文投稿に必要な費用を計上した。尚、設備備品費について該当はない。
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http://www.anat2.med.osaka-u.ac.jp/