研究課題
平成27年度は「ふたつの脳の進化」を導くための鍵革新となった発生機構を明らかにするという目的の下で、哺乳類と竜弓類の脳の共通点と相違点について、当初の計画に基づいて研究を進めた。27年度はヘビ(コーンスネーク)の胚を得ることに成功し、それを用いて神経発生と遺伝子発現の両面から解析を進めた。その結果、当初に予想された通りヘビ胚の終脳形態はヤモリと極めてよく似ていることが判明した。しかしながら、ヘビの末梢神経の形態はヤモリとは異なる点が多く見られ、そのことが終脳など中枢の形態にも違いをもたらしている可能性が考えられたため、ヘビ脳をさらに詳しく調べる必要性が生じた。また、前年度に引き続き竜弓類の感覚系の発生機構を解析した。27年度にはヤモリを用いた解析を進め、次世代シーケンサーを用いた解析によりヤモリの神経ガイド因子、脳形成因子の配列を得た。それらの遺伝子について、ヤモリ胚の脳での発現様式を観察し、当初の予定に従って視覚系神経路について竜弓類と哺乳類での比較を進めた。その結果、ヤモリの終脳において視覚系神経路の線維を受ける場所で発現する遺伝子の発現様式が、哺乳類のそれとは大きく異なっていることが判明した。この結果を昨年度に得られていたカメの結果と併せて考えると、レムノタラミック経路を発達させた哺乳類とコロタラミック経路を発達させた竜弓類(カメ・トカゲ)においては視床-終脳のガイド機構が大きく異なっている可能性が考えられ、この違いが二つの脳の違いをもたらす鍵革新のひとつである可能性が考えられる。この仮説は羊膜類の外群である両生類の神経ガイド遺伝子の発現様式からも示唆される。これら研究成果は27年度に開催された三学会ならびに日本動物学会において口頭発表を行い、両生類の結果については論文を投稿、受理された(Tosa et al., Zoological letters, 2015)。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた次世代シーケンサーを用いた解析結果を得ることができ、多くの遺伝子の発現様式の観察が可能となった。その結果、哺乳類と竜弓類で脳の形態の違いには、視床と終脳の間の神経入力に関わる遺伝子の発現様式の変化が大きく関わっている事を示す結果を得た。また、ヘビの受精卵を得ることに成功し、各発生段階の胚を用いた研究も成功したため、平成28年度は当初の予定通りに研究を進めることが可能であると考えられる。
当初の予定通り、平成28年度には哺乳類と竜弓類の脳の違いをもたらす因子についての解析を進める。ニワトリへの電気穿孔法を用いた遺伝子導入は27年度中に行っており、今後はそれらの標本を用いて切片を作成し、領域マーカー遺伝子の発現様式が変化しているかどうかの解析を進める。ソメワケササクレヤモリについても遺伝子導入実験を開始している。技術的な点で改良が必要になれば、連携研究者の野村真博士に協力を仰ぎ、解析を進める。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 3件) 図書 (1件)
Nature
巻: 531 ページ: 97-100
10.1038/nature16518.
Development
巻: 143 ページ: 66-74
10.1242/dev.127100.
Zoological letters
巻: 1 ページ: eCollection
10.1186/s40851-015-0029-9