1.直前の匂い経験による嗜好性変化の仕組み これまでの解析により、AIY、AIA介在神経が匂い経験による嗜好性変化に重要であることがわかってきた。さらにAIA神経においてニューロペプチド受容体であるNPR-11が機能していることが明らかとなった。そこでNPR-11のリガンドを探索するために、ニューロペプチドの変異体を用いて嗜好性変化の表現型を観察した。nlp-1、nlp-5、nlp-12、nlp-15、nlp-18、nlp-20、nlp-38について解析したところ、nlp-5、nlp-12、nlp-18変異体が有意に異常を示す結果が得られた。そのうちnlp-5、nlp-18はnpr-11変異体と同様にほとんど嗜好性変化が起こらない強い異常を示したことからリガンドとして働いている可能性が示唆された。 2.匂いの濃度による嗜好性変化 これまでの解析により、線虫C. elegansでは匂いの濃度により働く神経、嗅覚受容体のレパートリーが変化することで、嗜好性変化が起こることがわかってきた。本年度は、C. elegansと異なる線虫種であるマツノザイセンチュウについても、匂いの種類、濃度で嗜好性変化が起こるかを検証した。マツノザイセンチュウにおける嗅覚解析法をまず確立し、53個の匂い物質について網羅的に調べた。その結果誘引性、忌避性の匂いをそれぞれ同定することができた。さらに、その嗜好性は単離株によって大きく異なることが示され、自然界で遺伝子変異が起こっていることがわかった。これらの知見は、マツノザイセンチュウの駆除において重要である(特許出願中)。
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