研究課題
これまでの研究で、prethalamusは視床皮質投射線維(TCA)の伸長に関して促進的に機能していることが示唆されている。本研究ではどのような分子メカニズムによりprethalamusがTCAをガイドしているのかを明らかにすることを目的としている。Olig2欠損マウスでは間脳の一領域であるprethalamusの低形成がみられることから、Olig2欠損マウスの胎齢13.5日目(E13.5)前脳を野生型マウスと比較したマイクロアレイ解析のデータをもとに、解析する分子をピックアップした。また、いくつかの細胞表面分子やプロテオグリカンがTCAの回路形成に重要であるという報告があり、このような分子も解析した。分子発現の解析は、定量PCR、in situ hybridization (ISH)により行った。定量PCRでは、E13.5とE15.5の野生型およびOlig2欠損マウスの前脳から全RNAを抽出し、これを逆転写反応したものを用いた。ISHでは、同じ発生段階の脳を4%パラフォルムアルデヒドで固定し、20μm厚の組織切片を用いた。最初に、ニューロカン、シンデカン-1、シンデカン-3に着目した。ニューロカンはそれ自身が軸索伸長に抑制的に作用し、逆にシンデカン-3は様々な軸索ガイダンス分子をヘパラン硫酸基に結合させて軸索伸長の方向決定にかかわっていると考えられている。これらの3つの分子は、マイクロアレイチップには載っていないものである。ISHから、ニューロカンとシンデカン-3のmRNAはE13.5の間脳に広く発現がみられた。また、Olig2欠損マウスの間脳と野生型のそれとで、分布やその強弱に違いは認められなかった。シンデカン-1のmRNAは検出できなかった。定量PCRでは、これら3つのプロテオグリカンは、発生に伴う発現量の変化は認められたが、一方でOlig2の欠損による有意な違いは認められなかった。この結果から、これら3つの分子は除外することができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、これまでの報告やマイクロアレイデータから解析すべき分子をピックアップして一つずつ調べていく方策をとっている。あわせて、DiIを用いて調べた軸索伸長の挙動からも、候補分子を予想している。Olig2の欠損でprethalamusの低形成が生じ、これに伴いprethalamusで軸索伸長が一時的に抑制される。このことから軸索伸長を抑制する分子の発現上昇と軸索誘引分子の発現低下が予想される。同一細胞が、軸索伸長抑制分子とその受容体とを発現する場合には、機能がキャンセルされることが明らかにされており、様々な分子に着目して調べることが必要である。本研究では、定量PCRとISHとを用いて生化学的および組織学的な手法でアプローチすることを目指している。平成26年度では、(1) Olig2欠損マウス胎仔前脳のマイクロアレイデータをパスウェイ解析した結果、axon guidance pathwayに大きな変化があることが指摘された。その結果を受けて、(2)定量PCRを立ち上げて、(3)着目する分子を決め、(4)解析を始める、ことができた。この中で、TCAの回路形成に重要な分子であるといわれてきたプロテオグリカンが、本テーマからは除外できることが示されたことは、今後に向けた大きな成果である。このことから、Olig2欠損マウスやそのマイクロアレイデータを用いて解析を進めることの妥当性が示された。昨年度の終盤からは、本格的にマイクロアレイデータから着目分子をピックアップして調べ始めている。着目した分子をISHで解析するためにプローブを作製してpreliminaryに用いているが、野生型マウスの脳でシグナルが得られている。2年目では、これらを用いて解析を進めていく予定である。一方で、これらの分子のタンパク発現解析は、免疫組織化学染色に用いる抗体は手に入れて用いているが、Western blotting用のそれらはまだ手に入っていないので、できるだけ早く入手することを予定している。
2年目も、1年目とおおよそ同じ方法でアプローチしていく。すなわち、マイクロアレイ解析で発現変化の見られた軸索ガイダンス分子やその受容体の発現を解析する。組織学的には、ISHと免疫組織化学染色を用いる。生化学的には、定量PCR法とWestern Blottingにより解析していく。野生型マウスとOlig2欠損マウスとを用いて、TCA伸長の始まるE13.5と大脳皮質に到達する前後の時期であるE15.5の組織を用いて発現を調べる。セマフォリンとニューロピリン・プレキシン受容体、スリットとロボ受容体、ネトリンとDCC・unc受容体、SDF1とCXCR4受容体といった分子群を中心に解析を進めていく。これらの分子は、ファミリー分子のいずれかがOlig2欠損マウスで発現に変化がみられていることと、様々な脳領域で解析が進んでいることによる。特に、多くの分子で発現系が確立していることが大きな利点である。これらの分子のprethalamusでの発現に注目し、変化のあった分子に関しては、野生型マウス胎仔の視床組織を用いて、分子を発現させた細胞との共培養や分子を塗布した基質上での培養により軸索伸長挙動を確認する。
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