研究課題/領域番号 |
26430022
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
伊丹 千晶 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (90392430)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スパイクタイミング依存性可塑性 / カンナビノイド受容体 / LTD / 活動依存性 / シナプス刈り込み |
研究実績の概要 |
バレル皮質においては臨界期開始にはL4→L2/3 シナプスが重要であること、また、このシナプスはスパイクタイミング依存性可塑性STDPを示すことが知られている。視覚皮質では、GABA 細胞の発達が臨界期開始に重要な働きをしていると示唆されていたが、そのメカニズムの詳細は不明である。我々は、まず視床-L2/3 のLTD-STDP の性質を正確に同定し、次にその生理的意義を検討し、以下を明らかにした。 (1)生後2 週令での視床→L2/3 シナプス結合はカンナビノイド(CB1)感受性を示し、LTD-STDPはCB1受容体(CB1R)を介するものであること。本実験では、共同研究先のLu博士が所有するCB1Rのグローバルノックアウト、皮質興奮性細胞特異的CB1R及び、CB1Rのアゴニスト、アンタゴニストであるWIN、AM281等をを利用することにより判明した。(2)視床-L2/3のCB1RをCB1R作動薬で活性化すると視床投射が退縮を起こすこと。腹腔内にWIN delta 9-tetrahydrocannabinol(9THC、マリファナの有効成分、CB1Rのアゴニスト)を投与すると視床皮質投射は強く抑制され、AM281の投与は視床皮質投射を増強した。delta 9THCは、Lu博士が利用免許を有しており、利用が容易であった。(3)内因性のCB1Rは視床皮質投射を制御し、正常な神経回路の形成に重要な役割を果たしていた。Lu博士の所有するCB1R-KOマウスを用いて、単一視床線維をDiIで染色し視床投射を調べた。その結果、CB1R-KOマウスでは視床皮質線維が野生型と異なり、2/3層、4層内に広く分布しており、内因性のCB1Rが視床投射を制御していることが判明した。以上より、生後2週目、CB1Rは視床-2/3層投射にLTD-STDPを起こす一方で、退縮を起こしていたことが明らかであった。同時期、L4-L2/3 終末のLTP-STDPはシナプス形成を促していると考えられるが、それぞれのSTDPは生理的変化と形態変化の両方を誘導している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経の活動依存的変化(可塑性)は、脳の神経回路形成と記憶学習の基本メカニズムと考えられており、脳科学研究が明らかにすべき重要なテーマの1つである。発達期の神経回路形成は、遺伝的因子によってその枠組みが形成されるが、細部は経験的因子の作用によって環境に依存しながら完成していく。とりわけ臨界期は、経験的因子が神経回路形成を大きく左右する時期であり、そのメカニズムは近年次第に明らかにされてきた。発達期の視覚皮質では、GABA細胞の発達が臨界期開始に重要な働きをしていることが示唆されているが、抑制が臨界期を開始させるメカニズムはほとんどわかっていない。また、臨界期可塑性には皮質4層-2/3層間の発火順序に依存した可塑性(spike timing-dependent plasticity、STDP)が重要な役割を果たす。 これまでに我々は、臨界期前(生後2週目)の動物では4層-2/3層間に、臨界期中に見られるSTDPとは異なるタイプのSTDPが発現され、STDPのスイッチが臨界期開始を導いていること明らかにした(Itami et al. J. Neurosci. 2012)。同時に、生後2週目には視床から2/3層へ多くの投射があり、このシナプスは4→2/3層とはちょうど逆向きのSTDPを示すことを見出した。すなわち、2/3層へは4層と視床からと、異なるSTDPが集束している。そこで本実験では、1) STDPの集束が神経回路形成に及ぼす影響、2)視床→2/3層シナプスでは、STDPの発達に伴う変化はあるか、3)視床→4層シナプスではSTDPは見られるのか、またそれは発達に伴って変化するか、等を明らかにすることを目的とする。様々なシナプス結合において、このようなSTDPルールの性質と発達に伴う変化、及びそれらの相互作用を詳細に調べることにより、回路形成メカニズム、可塑性発現メカニズムを理解できるのではないかと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
DGL-alpha KO mouseを使って、この時期のSTDP-LTDにおけるカンナビノイド受容体CB1の内因性リガンドが2-AGかアナンダミドかどうか調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
生理学的可塑性と形態学的可塑性のリンクをみるため、電気生理学的解析を行う際に電極内にバイオサイチンを注入し、実験後、軸索投射パターンを描画、解析する予定だが、本格的な軸索描写は時間がかかるため、予備的なデータをコンフォーカルで取得したところ、予定していた日齢では、形態的違いが得られなかった。従って、スライスを使用した解析から、in vivoによるデータ解析に変更を検討中である。
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次年度使用額の使用計画 |
in vivo形態解析へと解析方法を変更する場合、エキスパートである鳥取大学の畠義郎教授と共同研究を行い、相手先に出向き実験指導をしていただきデータを取得する必要がある。この場合、出張費がかかると思われるので、細胞描画装置Neurolucidaの購入は断念する。
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