申請者らは補体タンパク質であるC1q、腫瘍壊死因子TNFaなどを含むC1q/TNFaファミリーに属するCbln1が、シナプス前部受容体NRX、シナプス後部のデルタ型グルタミン酸受容体と同時に結合し、三者複合体を形成することによって、シナプス前部後部の分化を引き起こすことを見出した。この研究を他のファミリー分子に発展させる目的で、C1q様分子 C1qL2及びC1qL3が合成、分泌される海馬歯状回苔状線維とCA3錐体細胞とのあいだの苔状線維-CA3シナプス形成機構に注目した。 カイニン酸型グルタミン酸受容体(カイニン酸受容体)神経ネットワークの活動を時間的あるいは空間的に統合する機能をもち、C1qL2及びC1qL3が分泌される海馬歯状回苔状線維-CA3シナプス後部に限局して局在する。申請者はC1ql2およびC1ql3はカイニン酸受容体のサブユニットであるGluK2およびGluK4の細胞外領域と直接に結合すること、C1ql2とC1ql3のダブルノックアウトマウスの苔状線維とCA3錐体細胞とのあいだシナプス後部においてはカイニン酸受容体が消失することを見出した。また、側頭葉てんかんにおいては、異常に分枝した苔状線維が顆粒細胞とシナプスを形成し、このシナプスにカイニン酸受容体が集積することによりてんかんが発症しやすくなると考えられている。C1ql2 C1ql3ダブルノックアウトマウスにてんかんを誘発する刺激をあたえると、苔状線維に異常な分枝は形成されたものの、そのシナプス後部にはカイニン酸受容体は集積せず、てんかん発作の発症が抑えられた。 このように、正常なシナプス形成時のみならず病態時においても、シナプス前部の苔状線維から放出される分泌性タンパク質C1ql2およびC1ql3が,シナプスをこえてカイニン酸受容体のシナプス後部への局在を決定することを明らかとした。
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