最終年度において、それまでの研究を更に発展すべく、生体、細胞、分子の3つのレベルで以下の研究成果が得られた。 1)生体での研究では、聴覚大脳皮質の深さ方向に等間隔で直線上に並んだ複数電極をマウスに挿入し、各電極での音刺激に対する電気的反応を計測したところ、ニコチン性活性による制御機構が、リン酸化酵素PKAを介して生じていることが更に明らかになった。ニコチン性活性による聴覚視床からの入力制御にはPKAが関与しなかったが、入力後の皮質内神経情報処理に関与していることが明らかになった。このニコチン性制御機構にムスカリン性アセチルコリン受容体の関与の可能性は低かった。 2)聴覚皮質でのニコチン性受容体活性による細胞機能の制御を脳スライスを用いて更に検討した。これまで皮質第3・4層の興奮性細胞において、皮質内興奮性シナプスでニコチン性受容体が機能増加を起こしていることを明らかにした。昨年度はニコチン性活性が抑制性シナプス電流を減少させることを見出した。 3)更に細胞内の分子機構について、これまで別のリン酸化酵素であるERKがPKAにより制御されていること、またPKAが興奮性シナプス電流を担う受容体(AMPA受容体)をリン酸化修飾していることを明らかにした。昨年度は修飾されたAMPA受容体の場所について検討し、神経細胞、特にシナプス表面でのリン酸化修飾が明らかとなった。 研究期間全体の研究から、大脳皮質での聴覚認識機構において、認知機能に重要な神経伝達物質であるアセチルコリンによる制御機構にはニコチン性受容体が主に関与し、その機構にはPKA活性によるERK活性とシナプス表面のAMPA受容体のリン酸化修飾が重要な役割をしていることが示唆された。現在、論文出版準備中である。また、抑制性シナプスでの抑制的制御も明らかになった。これらの研究により感覚認識障害の治療標的が明らかになった。
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