研究課題/領域番号 |
26430027
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
柳原 真 沖縄科学技術大学院大学, Neuronal Mechanism for Critical Period Unit, 研究員 (60392156)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 記憶 / 学習 / 神経活動 / 聴覚 / 社会的関係 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、発達学習期において他個体との社会的関係に基づいて聴覚記憶が形成される神経メカニズムを明らかにすることである。ヒトにおける言語獲得と同様に、ソングバードの発声学習は生後の聴覚経験に強く依存し、幼鳥は社会的繋がりが形成された親鳥から聴いた歌のみを選択的に学習する。従来、感覚学習期に聴き憶えた親鳥の歌記憶は、大脳聴覚野に保存されると考えられてきたが、その直接的な生理学的証拠はない。 本研究では、聴覚野における一群の神経細胞が、学習した親鳥の歌に対する選択的聴覚応答を獲得することを明らかにした。この細胞が示す選択的応答は、親鳥の歌記憶を表現すると考えられる。さらに、聴覚野において学習中の自己の歌に対して選択的聴覚応答を示す細胞も見出した。これら聴覚野の神経細胞は、学習中における自己の歌と親鳥の歌との間の誤差を検出し、自己の歌を修正する感覚運動学習に重要な役割を果たすと考えられる。抑制性神経伝達の遮断によってこれら神経細胞の選択性が顕著に低下することから、経験依存的な抑制性回路の発達が歌記憶の形成に関わる重要な要因の一つであることが示唆された。 幼鳥が歌を記憶する際には、親鳥から直接歌を聴く必要があり、スピーカーから提示された歌を聴くだけでは学習できない。社会的繋がりが成立した親鳥の存在が、幼鳥の内的状態に影響を与え聴覚学習を成立させる可能性がある。親鳥の存在が聴覚野における神経細胞の聴覚応答を修飾する可能性を検討した結果、学習した親鳥の歌に対する聴覚応答が親鳥の存在下で顕著に増強されることが明らかになった。さらに、ノルアドレナリンの局所投与が聴覚応答の増強を引き起こすことを示すデータも得られつつある。今後は、親鳥の存在という社会的情報がノルアドレナリン等の神経修飾物質を介して歌記憶の形成に関わる可能性の検証を引き続き進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた研究計画通り順調に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
予備的研究で得られていた知見が、データを積み重ねることで非常に再現性の高い現象であることをまず確認できた。さらに、この結果に基づいておこなった神経生理・薬理学的実験によって、経験依存的な選択的聴覚応答の形成に抑制性神経回路の発達や神経修飾物質が関与することを示唆する結果が得られた。今後は、引き続き当初の予定通り神経生理・薬理学的実験を進めることで幼鳥の内的状態が聴覚応答に与える影響を検証し、社会的関係に基づいて形成される記憶の神経メカニズム解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は使用計画に沿って、神経活動記録装置のアップグレード等をおこなった。それ以外の支出については、研究の進展を妨げることなく、当初の予定に比べて低く抑えることができたので、結果として当初予定していた使用予定額に至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、引き続き進める神経生理・薬理実験のために使用する予定である。
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