高次脳機能を司る大脳皮質の神経細胞は多様な個性を持つ。多様な個性を持つ神経細胞群が特異的なネットワークを形成することで、機能的な神経回路が形成されると考えられる。本研究ではマウス大脳皮質一次視覚野を対象に、その機能的な局所神経回路を形成する分子メカニズムを明らかにする事を目標として実験を行った。局所神経回路を構成する神経細胞の個性を決定する分子として、クラスター型プロトカドヘリン(cPcdh)に着目している。そこでcPcdhの発現制御に重要な役割を持つと思われるゲノムDNAメチル基転移酵素Dnmt3bのノックアウトマウス(KO)を使い実験を行った。Dnmt3bは、胚発生期に神経前駆細胞において発現し、多くの遺伝子発現をゲノムDNAのメチル化によって制御する。Dnmt3b欠損(KO)マウスを使い、その機能がどの様に生後の視覚野神経細胞の反応特性の獲得に関与するかを明らかにすることを目指した。 まず、胎生致死であるDnmt3b KOマウスよりiPS細胞を樹立し、そのiPS細胞を野生型胚に移植する事によりKO遺伝型と野生型細胞を併せ持つキメラマウスを作製した。このキメラマウスに様々な方位と空間周波数よりなる縞刺激を呈示し、同一個体の一次視覚野よりGFPによって標識されたKO遺伝型細胞並びに野生型細胞の視覚応答を、二光子励起顕微鏡を用いた赤色蛍光カルシウム指示薬Cal590によるin vivoカルシウムイメージングにより記録した。解析の結果、Dnmt3b KO細胞と野生型細胞の視覚刺激に対する応答強度には差がなかった。KO細胞群の空間周波数選択性は野生型細胞と同程度であったが,方位に関しては最適刺激以外の刺激に対する応答が高く、その結果として方位選択性が野生型細胞群に比べて低かった。以上の結果は、神経前駆細胞でのゲノムDNAへのメチル化制御が、生後の一次視覚野神経細胞の反応特性に影響を与える可能性を示唆する。
|