研究実績の概要 |
GABAは成熟動物の中枢神経系において、抑制性神経伝達物質として働く。一方、幼弱期には興奮性に作用し、神経系の形態形成に関与すると考えられている。我々は、これまでの研究で以下のことを明らかにしてきた。(Takayamaら 2006, 2007, 2010, Kinら 2014, Kosakaら 2012, Tatetsuら2012, Takayama & Kim 2013, Kimら準備中)1.幼弱期、GABAはシナプス外に放出され、興奮性に作用する。2.GABAシナプス、GABA入力の増加にともなってGABAの作用が抑制性に変化する。3.神経軸索の損傷後、再生(再伸長)時に、GABAの作用が興奮性に変化し、機能回復とともに、抑制性に戻る。 以上の結果を踏まえて、本申請の研究において、GABAシグナルに関与する分子の発現が、損傷神経軸索の再生に影響を与えるか否か神経損傷モデルマウスを用いて解析した。注目した分子は、GABAの合成を担うグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD),GABA及びグリシンの小胞放出に関与する小胞型GABAトランスポーター(VGAT)、そして、GABAの作用を興奮性から抑制性にシフトするK+, Cl-, 共輸送体(KCC2)、の3つでありいずれの分子も完全欠損では生後呼吸不全などで生存できないため、2か月齢のヘテロマウス(いずれも発現量が半分)を用いた。顔面神経損傷モデルを作成し、その後の回復経過を顔面神経の機能を指標に解析した。その結果、VGATのヘテロマウスでは、回復が遅れた。一方、KCC2とGADのヘテロマウスでは回復が促進されていた。このことから、以下のことが推測された。 1.GABAの興奮性は、軸索の再伸長を加速する。2.GABA・グリシンの開口放出の減少は軸索の再生を阻害する。3.VGATとGADで逆の結果が示されたことから、グリシンの変化を今後検討する必要があると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究を始めるにあたって、GAD,KCC2, VGATの3つの分子は神経再生に重要な役割を果たしていることは確信していたが、発現量が半減しただけで変化が現れるか不透明であった。再生過程に影響が出るかどうかが、本研究の最も重要な点であり、その結果が初年度に得られたことから、おおむね順調といえる。現在、症例数を増やして行動解析の再現性を確認するとともに、再生に伴って変化するシグナル分子(内部コントロール)の発現変化を解析中である。これまでの、正常マウスの顔面神経損傷モデルを用いた解析から、神経切断により運動ニューロンの神経伝達物質であるアセチルコリンの合成酵素コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)が著しく減少し、軸索の再到達とともに増加することがわかっている(Tatetsuら2012, Kimら準備中)。一方、カルシトニン関連ペプチド(CGRP)とガラニンが損傷ニューロンで発現が増加し、症状の回復とともに正常レベルに戻っていた。行動解析とともに、これらの神経再生によって増減する内部コントロール分子の発現・局在変化をモニターし、得られた結果の裏付けを行っている。
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