研究課題
1.神経軸索損傷後の標準的再生過程を明らかにする目的で、顔面神経切断・縫合モデルを用いて、末梢神経軸索の神経再生、末梢神経機能の回復、運動ニューロンに発現するマーカー分子の変化(発現・局在)を時間的・空間的指標で解析した。その結果、以下の点を明らかにした。(1)顔面神経の機能を8点満点で評価し、その回復には60日を要した。(2)損傷後、ChATの発現が消失した。その後、順次発現が回復した。ChAT陽性細胞の数が、顔面神経機能と非常に強い相関があった。(3)CGRP, Galaninはそれぞれ軸索損傷後に発現が増加した。しかしながら、回復を待たずに正常値に戻った。(4)GABAの作用を決定するKCC2の発現が損傷後低下し、機能回復とともに、発現が正常化した。(5)その他のマーカーに大きな変化は認められなかった。以上の事から、顔面神経の行動検査とChAT陽性細胞数、KCC2の発現量の間に強い相関があり、両者が顔面神経損傷・再生過程における機能解析に有用であることが明らかになった。本研究結果は論文として作成終了し、まもなく学術論文として投稿予定である。2.同様の解析を舌下神経モデルにおいて行った。その結果、顔面神経と同じような結果が得られた。3.1.2で得られた結果を用いて、神経再生へのGABAの関与を解析した。昨年、行動実験において、KCC2の発現が50%になった場合には再生が速い事が確認され、VGATの発現が50%になった場合には、再生が遅延する結果が得られた。この結果を補強する目的で、ChATの発現変化と、その他軸索損傷後に発現が増加する分子マーカーである、CGRPとGalaninの発現変化を解析した。その結果、行動実験を補強するデータが得られた。現在、統計的解析を行っている。以上の事から、GABAの放出と興奮性作用は損傷軸索の再生(再伸長)にポジティブに働くことが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
申請時にGABAの合成と放出、GABAの興奮性が損傷軸索の再生に促進的に働くと予想していた。これまでの研究から、行動実験においてポジティブな結果が得られた。本年度は、それを客観的に裏付けるための予備的実験を行い、マーカー分子を特定することが出来た。そして、その結果を元に、行動実験を裏付ける結果が得られた。これらのことから、GABAが終末から放出され、運動ニューロンに興奮性に作用することが軸索の再伸長に重要な役割をする結論が得られた。今後は、GABAの興奮性の下流にある分子カスケードメカニズムを明らかにすることにより、次年度で申請内容が達成されると考えられた。
(1)舌下神経損傷・縫合モデルにおいて同様の結果が得られるかを検証する。(2)GABAの興奮性作用の下流にある分子の動きを解析する。具体的には、カルシウム関連タンパク質を想定している。多くの分子を試し、軸索伸長につながるメカニズムを解析したいと考えている。(3)GABAの作用を興奮性にするKCC2の発現減少の上流にある分子を解析する。BDNFなどの発現が想定されており、これらの分子の発現解析を行う予定である。(4)論文の作成を急ぐが、並行して、薬剤によるKCC2の発現減少により再生が促進されるかを解析する。このことにより、薬物治療への道を明らかにする。
購入を予定していた試薬・抗体の国内在庫が無かったため、平成27年度中の納品が出来なくなった。そのため平成28年4月以降に発注を行うことにしたため。
平成28年4月以降に、試薬・抗体を発注し研究を行う。
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