研究課題/領域番号 |
26430038
|
研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
松田 賢一 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40315932)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | エストロゲン / 脳 / 扁桃体 / 妊娠 / 出産 / 情動 |
研究実績の概要 |
本研究計画の目的は、実験動物(ラット)を用いて、妊娠・出産に伴う情動変化と扁桃体神経構築連関について、神経形態学・神経組織学的手法を基軸に、網羅的遺伝子発現解析による制御分子の同定、アデノ随伴ウイルスベクターを用いた発現制御および情動行動の評価といった、分子レベルおよび個体レベルの解析を有機的に統合し、妊娠・出産に伴う扁桃体神経構築の変化について、その生命事象の根本原理の解明を行うことである。これまでに、妊・産期の扁桃体神経細胞の継時的な形態変化を、ゴルジ鍍銀染色を用いて、樹状突起の分岐の数と棘の数を指標に解析を行った。妊娠後期から産後初期にかけて扁桃体基底外側核および中心核で棘の数が著しく減少する(樹状突起10 μmあたり、約25個から約15個に減少)結果を得た。この結果は、妊娠出産に伴って扁桃体の神経機能が変化することを示しており、この期間の情動変化との関連を強く示唆する。以上明らかになった神経形態変化の物質的基盤を明らかにするために、妊・産期の脳より扁桃体を回収し、網羅的遺伝子発現解析により、発現に変動が見られる脳内分子の同定を試みた。マイクロアレーにより遺伝子発現解析を行ったところ、妊娠・出産に伴い上昇・減少する遺伝子が、多数明らかになった。以上の成果をもとに、国際神経内分泌学会、日本行動神経内分泌研究会、日本内分泌学会、日本神経科学会、日本解剖学会等で発表し、注目を集めた。さらに、学術論文として神経科学領域の学術雑誌に3編、細胞生物・生化学領域の学術雑誌に1編、内分泌学領域の学術雑誌に1編発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、妊・産期の扁桃体神経細胞の継時的な形態変化を、ゴルジ鍍銀染色を用いて、樹状突起の分岐の数と棘の数を指標に解析を行った。妊娠・出産に伴い棘の数が著しく減少する結果を得た。計画どおり実行され、良好な結果となった。次に、妊・産期の扁桃体の網羅的遺伝子発現解析を行った。妊娠・出産に伴い上昇・減少する遺伝子が、多数明らかになった。計画では、リアルタイムPCRで、定量解析を行う予定であったが、機能分子レベルでの発現を調べるために、3つの候補分子タンパクに対する抗体を用いた免疫組織化学染色により、発現変動の検証を行った。免疫染色の条件検討に若干の時間を要し、発現変動を確定するには至らなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度に行った、ゴルジ鍍銀染色による妊・産期の扁桃体神経細胞の形態変化解析を、扁桃体延長領域として最近注目を集めている分界条床核に対しても行い、神経核間における比較により、情動変化との関連性をさらに掘り下げる予定である。網羅的遺伝子発現解析で同定された妊娠・出産に伴い上昇・減少する遺伝子について、分子の種類により、リアルタイムPCRあるいは免疫組織化学染色・ウエスタンブロッティングで、定量解析を行う。両側卵巣摘除ラットにエストロゲン・プロゲステロンを過剰投与し、妊娠期から産後にかけてのホルモン変化を再現する系の確立、高架式十字迷路試験とオープンフィールド試験による不安行動テストを行う。上記により、変動が確定された遺伝子に対するsiRNAを発現するアデノ随伴ウイルスベクターを構築、扁桃体に感染させ、不安行動に変化が生じるか検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度計画では、網羅的遺伝子発現解析によって妊娠・出産に伴い上昇・減少することが示された遺伝子が実際に発現変動しているかをリアルタイムPCRで定量解析を行う予定であったが、機能分子レベルでの発現を調べるために、3つの候補分子タンパクに対する抗体を用いた免疫組織化学染色により、発現変動の検証を行ったため、予定より予算を必要としなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に、網羅的遺伝子発現解析によって妊娠・出産に伴い上昇・減少することが示された遺伝子が実際に発現変動しているかをリアルタイムPCRで定量解析を行うために使用する予定である。
|