研究課題/領域番号 |
26430042
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
榊原 伸一 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (70337369)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | inka2 / paxillin / オリゴデンドロサイト前駆細胞 / アクチン細胞骨格 / 細胞移動 |
研究実績の概要 |
inka2 は胎児期のオリゴデンドロサイト前駆細胞や成体脳の神経細胞シナプス部位に発現する遺伝子であり、Inkaドメイン(神経堤細胞の移動に機能すると考えられているInka1と類似の機能不明ドメイン)を持つことから、細胞移動などに関与することが推定される。神経細胞に発現するinka2は細胞移動などに関与することが推定される。培養細胞にinka2を強制発現させると,アクチン線維の細胞内配置の異常が起こり,細胞形態が球状に変化し細胞接着の阻害や,過剰な数のフィロポディアが形成される。一方shRNAによりinka2発現を抑制した培養細胞を用いて、スクラッチアッセイを行うと細胞移動能が増加した。この細胞移動能の変化が基質との細胞接着の変化による可能性を検討するため、フォーカルアドヒージョンに存在する分子の一つであるpaxillin分子のターンオーバを全反射照明蛍光顕微鏡法(TIRFM)により計測した。その結果inka2発現を抑制された細胞のリーディングエッジではpaxillin分子のライフタイムが有意に減少することが示された。以上の結果からinka2はアクチン骨格の再編成やフォーカルアドヒージョンの形成を調節し,細胞移動の推進力を発生させるのに必要な新たな分子であると推定された。さらに個体レベルの脳形成,シナプス形成においてinka2遺伝子が果たす役割を明確にすることを目的とし,inka2遺伝子のコンディショナルノックアウトマウス(inka2 cKO)を作製した。inka2 cKOヘテロ変異マウスにCAG-Creマウスを交配し、inka2遺伝子欠損ホモマウスを得た。現在inka2 null個体の表現型について組織学的解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今回作成したinka2遺伝子cKOノックアウトマウスは、エクソン間へのLacZ挿入されている。そのためmRNA転写の途中終結による遺伝子の機能欠損を予想していた。しかし予想に反してスプライシングのスキップが起こっていた。そのためさらに27年度はinka2のエクソンを完全に欠失させるために cKOヘテロマウスにCAG-Creマウスを交配し、inka2遺伝子欠損ホモマウスを作出する方針に変更した。そのため新たに学外からCAG-Creマウスを導入する手続きおよび承認が必要になり、当初の計画に遅延が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
CAG-Creマウスを交配して得られたinka2遺伝子欠損ホモマウスについて発生段階を追って詳細な組織学的な解析を行いinka2遺伝子の機能を解析する。inka2抗体による観察からinka2タンパク質は成熟期の大脳皮質,海馬領域ニューロンの樹状突起のシナプス部位に局在していることから、inka2がアクチン再編成を通して脳のシナプス形成維持に何らかの役割を果たしている可能性も想定される。そこで大脳皮質、海馬のゴルジ染色を行いspine数、形態の変化を解析することでinka2のシナプスにおける役割を検討する。さらにinka2結合タンパク質として細胞移動やシナプス可塑性に関与する複数のタンパク質を同定しているため、これらのタンパク質群の局在や機能がinka2 null個体で変化しているか検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定したinka2遺伝子欠損ホモマウス作出計画に変更が生じ、表現型解析の開始に遅延が生じたため、組織解析用の試薬など消耗品の使用が予定額を下回ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度末に新たに作出されたinka2遺伝子欠損ホモマウスの詳細な表現型解析を開始するために、動物繁殖用飼育費、分子生物学用消耗品、組織学解析用試薬などに使用予定である。
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